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silent child


 授業が終わって、昼休みになった。
 僕と大和はお弁当を持って、いつも通り校庭に行く。

 いつもの場所。渡り廊下のコンクリート部分に腰を下ろして、お弁当を広げる。
 ここは日差しも隠れるし、風通しもいい。それに、お尻に当たるコンクリートが、ひんやりと冷たくて、気持ちいいんだ。

「うーーん、やっぱ外は気持ちいいなぁ。」
 大和はそう言って、両手を上に大きく広げ、伸びをする。

 大和は外が好きだから、外でお弁当を食べたいんだって言う。暑すぎる真夏でも、寒すぎる真冬でも。そんな日に外で食べても、気持ちいいわけもない。

  だけど――僕は知っている。

 大和は別に、外が好きなわけじゃない。本当は、暑がりで寒がり。
 大和は僕のために、誰もいない校庭で、一緒にお弁当を食べてくれるんだ。
 大和は僕のために、僕が喋れる場所を作ってくれているんだってことを……、僕はちゃんと知っている。

 大和以外居ないここなら、僕は簡単に喋ることが出来る。

「大和、ライブなんだけど……、やっぱり僕……。」
 その後、何て続けようか悩んで、下を向き口を噤んだ。

「俺、思うんだけどさ。」
 「出来ないよ」という言葉を言おうと思った所で、大和が代わりに声を出した。
 隣を見れば、大和は真っ青な空を見上げていた。僕も何となく真似をして、空を見上げる。

「例えばさ、バンドを組むとするだろ? そうするとメンバーは4人はいるわけじゃん。そしたらさ、お客が100人居ても、1人に集まる視線はたったの25人だぜ? これって、教室で一人で発表するよりも、難しいことじゃないんじゃない?」
(そっか……、“一人じゃない”んだ)

 さっきの授業中、僕は、たったの38人でも出来ないのに、ライブなんてとんでもないって思ったけど……。ライブは、授業とは違うんだ。
――僕は一人じゃない。

「それにさ、多分ボーカルが一番視線浴びるんだろうから、俺達が浴びる視線なんて、実際はもっと少ないと思う。
 だからさ、俺も、他の仲間も居るし……、それにお前の相棒も俺の相棒も居るんだし……、やってみれば、ライブなんて、何てことないかもしれないぜ?」

 最後に、こっちを向いて、にやりと笑った大和が眩しかった。ここは日陰のはずなに……、まるで太陽の光を浴びているかのように、眩しかった。
 それに、カッコよかった。やっぱり大好きだって思った。

「そっか。そうだよね。一人じゃない。ステージに立つ時は……、仲間が居るんだよね。」
 僕も、大和につられて、にやりと笑った。

 不思議。さっきまではライブなんて絶対無理だって思っていたのに、今はなんだか出来そうな気がしてきた。

「ライブ、やってみようか。」
 そう言ったのは、僕の方だった。


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