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silent child


「わぁっ!!!」
(ふぎゃっ!!)

 突然、後ろから両肩を掴まれ、耳元で大きな声で叫ばれた。
 おかげで僕の心臓は、バクバクだ。

 こんなことするヤツは一人しかいない。

 後ろを振り向けば……、そこに居るのはやっぱりマリオ。

「ちぇーっ。驚かせばケンタの声、聞けると思ったのにぃーっ。」
(……卑怯だ)
 そういう気持ちを混めた目で、マリオを見つめる。

「やっぱ、ダメかぁー!」
 マリオは、いい歳こいて、舌をペロッと出した。
 もう一度やられたら、一文字くらい音が飛び出しちゃいそうだっていうのは、秘密。

「レッスン、始めるぞい!」
 マリオは僕の背中を、ケース越しにぐいぐい押して、レッスン室まで僕を運んでいく。


 ケイ先生の時は、10分前にはレッスン室に入室して待ち構えていた僕。
 最近の僕は、開始時間になっても、5分過ぎても、入室することが出来なくて、店内にひっそりと隠れている。

 そんな僕を、マリオはいつも探しに来る。

「ケンタどこかなぁー? ここかなぁー?」
「分かった! ここだ!」
「あれー、居ないぞぉ。やっぱりこっちか!」
 とかなんとか言いながら。
 声を出すから、マリオがどこに居るのかなんてバレバレ。僕は背を低くして、そろそろと移動する。5分くらい経ってから、マリオが可哀相になってきて、わざと捕まってやる。
 今日は、マリオに背中に回られてしまったけれど。

 この意味不明なかくれんぼは、毎回恒例。

 レッスン室に到着し、僕はノロノロと準備をする。
 支度を終え、時計をちらっと見れば……。

「ケンターッ! もう20分じゃーんっ!」
 ムンクの叫びみたいな顔して、マリオが叫ぶのは、やっぱり恒例。

「よぅーしっ! 今日は、18時20分までだぁー!」
 マリオは、そう言って、いつも時間を伸ばしてくれる。僕の自業自得なんだから、時間通りに終わってくれていいのに。

「じゃぁ、とりあえず宿題からぁー。」
 マリオの声を聞いて、僕は教本を開く。そして、マリオがMDでベース音かけるのを待ってる間に、手の位置をスタンバイする。


「…………。」
(あれ? 流れない?)
 マリオの方を向けば、マリオは僕の右手をじっと見ていた。

「そのピックちょっとかして?」
(ヤダ!)
 僕はマリオの目から隠すように、ソレをぎゅっと掌に握りこんだ。あの5文字が書かれた、ケイ先生の物だった白いピックを。

「ちょっと見たいだけだって。」
(ヤダッ! ダメッ!)

 白いピックは、下手くそな僕の下手くそな使い方によって、変に削れていた。
 ソレを見せてしまったら……、捨てろって言われるかもしれない。新しいのに変えろって言われるかもしれない。


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