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silent child
10

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 初めてお葬式という場に出た。
 学ランを着て、大和と一緒に……。

 とても静かな……、白と黒の世界だった。聞こえてくるのは、小さな悲しみを表す音。

 みんな泣いていた。
 生徒さん達が、「有難う、先生っ。」そう言って、泣いていた。
 僕には、人前で泣くことが出来ない。それに――、やっぱり僕は……、泣いちゃいけないと思った。

 僕は、黒くて長い列に並んだ。

「有難う。先生。」
 そう言ってお焼香をすませていく生徒さん達。
 僕は、どんどん先生に近づいていく。

 回ってくる。
 僕の番が……回ってくる。

 そして――、僕の前から人が居なくなり……、僕の番になった。
 僕の後ろには大和。そして、その後ろには黒い服を来た人達が続く。

 僕はゆっくりと先生の前まで進んだ。
 棺おけを見ながら……。

 ピーちゃんを思いだした。
 あっ君を思い出した。
 ケイ先生の笑顔を思い出した。

――音に出して伝えたかった。
 昨日叫んだ言葉を思い出す。
――いつかきっと出来るよ。
 昨日大和に貰った言葉を思い出す。

 僕は口を薄っすらと開いた。ひゅーひゅーと息が漏れるのが聞こえた。

 先生の体はまだこの世にある。遅くなったけど……言うべきだと思った。

「……っ、……っ。」
(出ろっ! 出ろよっ!)

「……っ、……っ。」
(お願いだから……っ!)

 どかない僕に、沢山の視線が刺さっていた。グサグサと。だけど……、どきたくなかった。

「……っ、……っ。」
(ケイ先生……っ)

「……っ、……ぁっ、……っ。」
 微かに一文字が出た気がした。

「……りっ、……っ、……っ。」
(二文字目……)

「……っ、……がっ、……っ。」
(三文字目……)

「……とっ、……っ、……ぅっ。」
(これで……5文字)

――やっと言えた。

 遅すぎた“ありがとう”。
 初めて人前で音を発した。

 多分、周りの人には、僕の途切れ途切れな言葉の意味は、ちっとも理解出来なかったと思う。
 だけど――、理解してくれた人が、二人居た。

 大和と、テツさん。

「ケンタ、伝わったよ……っ。」
「うんっ、きっと……っ、憲太の声はっ、先生まで……、届いたよ……っ。」

 人前で泣くことの出来ない僕。
 その代わりなのか……、二人は一杯泣いていた。

 大和は……、誰よりも、一番大きな声で泣いていた。
 僕は顔を真っ赤にして……、その音をずっと、ずっと……聞いていた。


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あきゅろす。
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