silent child
10
*****
初めてお葬式という場に出た。
学ランを着て、大和と一緒に……。
とても静かな……、白と黒の世界だった。聞こえてくるのは、小さな悲しみを表す音。
みんな泣いていた。
生徒さん達が、「有難う、先生っ。」そう言って、泣いていた。
僕には、人前で泣くことが出来ない。それに――、やっぱり僕は……、泣いちゃいけないと思った。
僕は、黒くて長い列に並んだ。
「有難う。先生。」
そう言ってお焼香をすませていく生徒さん達。
僕は、どんどん先生に近づいていく。
回ってくる。
僕の番が……回ってくる。
そして――、僕の前から人が居なくなり……、僕の番になった。
僕の後ろには大和。そして、その後ろには黒い服を来た人達が続く。
僕はゆっくりと先生の前まで進んだ。
棺おけを見ながら……。
ピーちゃんを思いだした。
あっ君を思い出した。
ケイ先生の笑顔を思い出した。
――音に出して伝えたかった。
昨日叫んだ言葉を思い出す。
――いつかきっと出来るよ。
昨日大和に貰った言葉を思い出す。
僕は口を薄っすらと開いた。ひゅーひゅーと息が漏れるのが聞こえた。
先生の体はまだこの世にある。遅くなったけど……言うべきだと思った。
「……っ、……っ。」
(出ろっ! 出ろよっ!)
「……っ、……っ。」
(お願いだから……っ!)
どかない僕に、沢山の視線が刺さっていた。グサグサと。だけど……、どきたくなかった。
「……っ、……っ。」
(ケイ先生……っ)
「……っ、……ぁっ、……っ。」
微かに一文字が出た気がした。
「……りっ、……っ、……っ。」
(二文字目……)
「……っ、……がっ、……っ。」
(三文字目……)
「……とっ、……っ、……ぅっ。」
(これで……5文字)
――やっと言えた。
遅すぎた“ありがとう”。
初めて人前で音を発した。
多分、周りの人には、僕の途切れ途切れな言葉の意味は、ちっとも理解出来なかったと思う。
だけど――、理解してくれた人が、二人居た。
大和と、テツさん。
「ケンタ、伝わったよ……っ。」
「うんっ、きっと……っ、憲太の声はっ、先生まで……、届いたよ……っ。」
人前で泣くことの出来ない僕。
その代わりなのか……、二人は一杯泣いていた。
大和は……、誰よりも、一番大きな声で泣いていた。
僕は顔を真っ赤にして……、その音をずっと、ずっと……聞いていた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!