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silent child


*****



 次のレッスン日がやってきた。

 僕のポケットにはケイ先生の白いピック。
――今日こそは絶対言うんだ!
 ポケットに突っ込んだ右手で、ぎゅっとソレを握り締めながら、僕は強く決心する。

 気合を入れて、お店のドアを潜る。

 今日はなぜだか、「いらっしゃいませ!」という元気なテツさんの声や、店員さんの声が聞こえてこない。
 僕は不思議に思いながらも、お店の奥に進んだ。

 レッスン室を覗いてみれば――、真っ暗だった。

 そこまで来て、僕は漸く何かが起こっていることを悟った。
 店内まで戻り、カウンターに行けば、店員さんが居た。僕の背中に担がれているギターケースを見て、店員さんの眉は八の字を描く。
(何……?)

 僕にはちっとも意味が分からない。

「ケンタ……。」
 僕の背中から、テツさんの声が聞こえた。なぜかいつもより、元気がない。
 テツさんの眉もやっぱり八の字を描いていた。

「ケンタ、何でここに居るんだ?」
(何でって何で?レッスンだからだよ?)
 僕にはやっぱり意味が分からない。

 テツさんは、カウンターに立つ店員さんに顔を向ける。
「まさか……、ケンタに、連絡してないのか?」
「彼、新しく入ったばかりで、まだ名簿に載っていなかったみたいで……。」
(連絡って……何?)

 気まずい空気が流れる。店内に流れる有線の明るい曲が、アンマッチに思えた。

 テツさんはそっと僕の両肩を掴む。眉を八の字にしたまま。
「いいか……、ケンタ、落ち着いて聞け。」

 テツさんは一拍置いて、顔をくしゃりと歪めながらこう言った。

「ケイ先生は……、亡くなったんだ。」

(何……? 亡くなるって……何?)
 僕にはまだ理解出来なかった。

「信じられないかもしれないけど……。
 亡くなったんだ。まだ若いのに……、脳梗塞を起こして……。夜眠ったまま……、そのまま……、起きなかったんだ……。」
(嘘だ! 嘘! 嘘!)

「もっと……、ギター弾きたかっただろうに……。もっと……、生きたかっただろうに……。」
(何で……? 何で……っ?)

「明日の夕方……、お葬式だから……。ケンタも……、行ってやって……?」
(遅かった……っ。遅すぎた……っ)

 僕は……、悟った。

 ケイ先生にはもう――、あの5文字を……、一生……、伝えることは……、出来ないんだって……。

 僕はお店を出て、自転車に跨った。
 今までで、一番のスピードを出して、自転車を漕ぎまくる。
 ブーブーと車が通るここで……、僕の顔が見えないこのスピードで……。

「ありがとうっ。」
 泣きながら、何度も呟いた。


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あきゅろす。
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