silent child
6
折角大和に貰ったリストバンド。
僕は、これを誰にも見せることも出来ず……、ずっと隠し続けるのかもしれない。
*****
今日でギターのレッスンは4回目――。
僕はすっかりケイ先生に懐いていた。
大和以外の前では、自分の意思すら表現出来なかった僕。自分の感情さえ表現出来なかった僕。
ケイ先生の前では、少しだけ表現出来るようになった。やっぱり喋れないことには、変わりないのだけれど……。
「そこ違ーう。あっ、今笑って誤魔化したな。」
「ここもう一回ねー。口尖らせてもダメー。」
「ギターって楽しいでしょ?ケンタ君、楽しそうな顔してるもんね。」
ケイ先生の言葉だけ聞いていると、僕がまるで表情豊かになったのかと思われるかもしれない。
だけど……、それは違う。僕は変わらず、ほとんどが無表情のまま。
ケイ先生は、僕の些細な顔の動きを読み取ってくれるんだ。
そんなケイ先生のことが――、今では大好き。
たった3時間とちょっとしか関わっていないのに。ケイ先生は不思議な先生だった。
「それ、カッコいいね。よく似合ってる。」
(嘘。僕には似合わない。)
ギターの練習中、袖が浮いて、大和がくれたリストバンドが見えてしまった。
ケイ先生が、このリストバンドの初の目撃者。似合っていると言われて、似合わないよと思い返しながら、僕の顔に、熱が集まっていくのを感じた。
「はい。今日はこれでお終い。」
(嘘?もうお終い?)
もう一時間経ってしまったなんて思えなくて、思わず僕は、レッスン室にかけられている壁時計に視線を向ける。
18時15分。一時間どころか、15分もオーバーしていた。
「時間が経つのって早いよね。」
恥ずかしいことに、僕の気持ちはケイ先生にはお見通しだった。
「今日はケンタ君を、外までお見送りしようかな。」
(嬉しい……)
先生は本当に外まで一緒に来てくれた。しかも、お店の前にある自販機で、僕にジュースを奢ってくれた。
僕はジュースを飲みながら……、先生はコーヒーを飲みながら……、初めて音の溢れる世界で一緒に時間を過ごす。
「ケンタ君のレッスン始まってから、もう一ヶ月経ったんだね。」
僕は喋れない代わりに、コクンと頷いて、同意を示す。
「これからも……、ずっと続けてね。」
僕は僕の出来得る限り、必死にコクリコクリと首を動かした。
「先生!こんにちはー!」
「あぁ、こんにちは。」
次の生徒さんが来た。ということは、多分もう18時30分。
今日は初めて、ケイ先生と1時間30分過ごした日。
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