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silent child


 僕の顔には熱が集まったままだった。

 ケイ先生は綺麗でカッコいい。
 ギターは楽しくて奥が深い。

 そんなことを考えながら、僕はお店を出て、自分の自転車に跨った。背中には、ズシリと重い、僕の相棒。

 僕もいつかケイ先生のようになりたい。

 冷めない熱を冷まそうと自転車を全力で漕げば、ビュービューと冷たい風が僕の顔にぶつかっていく。
 この感動を、この興奮を……、大和にも伝えたくて、大和の家にそのまま遊びに行った。
 大和の家に着いた頃には……、僕の顔はもっと熱くなっていた。


「どうだった?」
「凄かった! 先生も……、ケイ先生って言うんだけど、綺麗でカッコいいんだぁ!」

 大和に報告しながら、僕の顔はどんどん真っ赤になっていった。

「いいなぁ! 俺も習ってみたいーー!」
 大和は大和の青い相棒をケースから出しながら言う。
「大和もやってみたらいいよ!」
 僕は僕の赤い相棒をケースから出しながら言う。

 下手くそな演奏が始まる。

 タブ譜を見ながら、物凄く基礎的なフレーズをお互い弾いて、音を叫ばせる。
 やっぱりケイ先生とは全然違うんだけど……、下手くそな僕らはダサい以外の何者でもないんだけど……、それでも凄く気持ちがいい。

 相棒を横に寝かせ、少し休憩することにした。

「憲太ー、俺の指、なかなか硬くなってきたぜ!」
「僕のがヤバイよ! もう皮、何回も剥けたんだから!」

 ギターの弦を押さえるのって、実は中々大変なんだ。ピンと張られた硬い弦。それを押さえるのは、痛いし、力もいたりする。

「嘘ー! 俺のが絶対硬いし!」
「違うよ! 絶対僕だね!」
「じゃぁ、手かしてみ?」

 僕等は、お互いの左手を触り合った。お互いの指先。プニプニと軟らかかったソレは、押してみても弾まないくらい硬くなっていた。
 これは、僕等の努力の証。

「本当だ! 大和のが硬いかも!」
「ううん! やっぱ憲太のが硬いっけ!」

 この言葉の意味は――、お前の方が頑張っているよ。
 頑張って練習しているからこそ、硬くなる。

「くそー! 負けないからなぁー!」
「僕だってー!」

 そうして、また下手くそな演奏が始まる。
 あまりに夢中になりすぎて、お互い無言になる。

 大和の部屋に響くのは――、僕の音と、大和の音。
 たった……、二種類だけの音の世界。ぎこちなく、下手くそな音が飛び交う世界。

 アンプに繋いで、ボリュームを上げてる僕等の音は、多分、ううん、確実に……ご近所迷惑。騒音以外の何物でもない。

 それでも――、気持ちよかった。ずっと……、感じていたかった。


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あきゅろす。
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