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silent child


 夜、大和がやってきた。

「憲太ー? 大丈夫かー?」
 大和は、いつもと変わらない調子で聞いてくる。少し違うのは……、へらへらした顔じゃなくて、明らかに苦笑だったってことくらい。

 ベッドの上で、体育館座りをしたまま僕は叫ぶ。
「大丈夫なんかじゃ、ないっ!」

 大和は苦笑したまま、僕のベッドの上、僕の目の前にしゃがみ込む。
「うん、大丈夫じゃないよな。」
 ぽんぽんと頭を軽く叩かれれば、もう止まらない。

「僕は……っ、ピーちゃんなんか知らなかった……っ!」
「うん、知らなかっただけだよね。」

「僕には……っ、お花しか目に入らなかった……っ!」
「うん、夢中だったんだよね。」

「僕は……っ、何のためにお花を集めてるのか知らなかったんだ……っ!」
「うん。そうだよね。」

「本当は……っ、そんなつもりじゃないって、言い訳したかった……っ!」
「うん。分かってる。」

 言いたくて……、でも言えなくて……、ずっと喉に引っかかっていた言葉を、泣きながら吐き出した。
 言いたかった……、伝えたかった……、聞いて欲しかった……、僕の気持ち。

 大和は一つ一つに「うん」を返してくれる。

 僕は大和の前でだけ、泣くことが出来る。
 僕は大和の前だけで、本心を思いっきり叫ぶことが出来る。

 大和の前でだけ――、僕は僕になる。

 大和は僕のことを分かってくれる。家族よりも……、誰よりも……。
 そんな大和は僕にとって、特別な存在――。大好きで、大切で、唯一の存在。

「あっ君が、憲太に“ごめんなさい”って言っておいてって。」

 その言葉にもっと涙が溢れてきた。あっ君はやっぱり凄くいい子だったから。

 大和に抱きついて、胸に顔を押し付けて、僕は叫んだ。

「ごめんなさい……っ! ごめんなさいっ!」
(その6文字は僕が言うべき言葉なのにっ)
「大丈夫、あっ君も分かってくれるよ。」
 大和は僕をぎゅっと抱いてそう言った。

「友達に……っ、なりたかった……っ!」
(でも、自分でダメにしたっ)
「大丈夫、なれるよ。」
 大和は僕が落ち着くまで、ずっと抱きしめてくれた。

 次の日――。
 あっ君は、僕のクラスまでやってきた。

「昨日はごめんね? また一緒に帰ろう?」

 優しいあっ君は、綺麗な笑顔でそう言って、僕のことを許してくれた。
 でも――、やっぱり僕は喋れなかった。言いたかったのに……、あっ君を目の前にしたら……、たったの6文字さえ音にならなかった。

 それから、あっ君と一緒に帰ることはなかった。

 あっ君が嫌いだったわけじゃない。
 あっ君を許せなかったわけじゃない。

 僕は僕を……、許せなかったんだ――。


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あきゅろす。
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