silent child
5
今でも忘れることの出来ない思い出がある。
“あっ君とピーちゃん”……、下手に仲良くなろうとして失敗した思い出。
あれは小学校2年の時だった――。
*****
僕のクラスは大和のクラスより早く終わっちゃった。だから、廊下の前で大和を待つ。
「先生、みなさん、さようなら。」
「「「さようならーー。」」」
大和のクラスも終わったみたいで、次々とみんなが出てくる。
(いた! 大和だ!)
「大和! 一緒に帰ろう!」
見つけた瞬間、大和に駆け寄って誘いをかける。僕と大和の家は隣同士。だからほとんど毎日一緒に帰るんだ。
「わりぃー、憲太。今日もクラブなんだぁ。」
「えぇーー! またぁーー!」
最近大和はサッカークラブに入った。そのままクラブへと直行する大和とは別ルートになってしまう。
断られるのが続けて三回目になる僕は、なんとなく引き下がるのが嫌だった。
だから僕は、大和の腕に自分の腕を無理やり組んでこう言った。
「じゃぁ、僕が遠回りして帰るから、一緒に帰ろう! ね!」
「でもなぁ。なんだか悪いじゃん。また今度一緒に帰ろうぜ?」
「ヤダ! 絶対一緒に帰る!」
大和は渋っていたけれど、僕はどうしても一緒に帰りたかった。
「分かったよ。一緒に帰ろう。」
結局、大和は笑顔でそう言って、僕のわがままを許してくれた。そんな優しい大和が僕は大好きなんだ。
(久しぶりに大和と二人で帰れる!)
(嬉しいなぁ、何を話そうかなぁ)
そう考えていたら――、
「大和君、早くクラブ行こうよ!」
僕と同じくらいの身長の子が、僕が組んでいない方の大和の腕を、掴んで言った。
「あっ! あっ君。
今日、コイツも一緒だけどイイ?」
(えっ、その子も一緒なの? 嫌だなぁー)
一瞬、そう思っちゃった。だけど――、
「うん! もちろんイイよ!」
あっ君が迷わず笑顔で返事をしたのを見て、ちょっと反省した。
きっとあっ君はイイ子なんだな。もしかしたら、仲良くなれるかもしれない。
そんな期待を胸に抱いて、3人で校門を潜った。
真ん中はもちろん大和。右腕は僕と組んで、左腕はあっ君と組んでいる。
歩道一杯に広がって歩く僕達は迷惑かもしれないけど、僕は腕を外したくない。きっと、あっ君も同じ。
人見知りの僕は、ちっとも話せない。
だから、大和とあっ君が仲良く話すのを聞いていた。
そんな僕に気を使って、あっ君は頻繁に僕に話しを振ってくれる。
――凄くイイ子。本当に仲良くなれそう。
喋れない僕は、顔の動きだけで必死に反応を返しながら、そう思った。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!