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silent child


――嫌い。大嫌い。

 言い返したいのに言い返せないのが悔しくて……、目に涙が溜まってきた。

「そんなんじゃぁ、いつまで経っても変われないぞ?」
(そんなこと知ってる!)

「家でもそうなのか?違うだろ?」
(煩い! 煩い!)

「ほら、勇気を出せ。」
(ムカつく! ムカつく!)

 矢口先生は今までで一番最悪な先生だと思った。他の先生は、僕をここまで責めたりしない。

「先生。俺、憲太と一緒に自己紹介したいなー。ね? それでいいでしょ?」

 僕の背中から、僕を助ける声が飛ぶ。
 その声を聞いて、僕の心は一気に落ち着きを取り戻した。

 先生は許可していないのに、大和は勝手に自己紹介を始める。

「俺が滝大和で、こいつが高木憲太な。俺達、幼馴染で大の親友。憲太はこの通り、人見知りが激しいんだけど、それでもいいヤツだからさ! みんなこんな俺らと仲良くしてなー! よろしく〜。」

 大和が宜しくと言って、頭を軽く下げるのを見て、僕も慌てて真似た。
 まばらな拍手だったし、多分それは大和に向けてのものだっただろうけど……、それでも拍手を貰えたことが嬉しかった。


*****



 三年生が始まり数日が経った。

「ねぇ、高木君。今日予習してくるの忘れちゃったんだよねー。ノート見せて?」

(また?ヤダよ!僕だって苦労して予習してるんだ!)

 心の中ではイヤだと言っても、声には出せない僕。隣の女子は、勝手に僕の机の上からノートを引っ手繰っていく。

(返せ! イイなんて言ってない!)

 初めは良い子だと思った。僕なんかに話し掛けてくれるから。だけど目的は……、こういうことだったと知って凄くショックだった。

 悔しくて……、女子にも言い返せない自分が情けなくて……、また下を向いて真っ赤になった。

「いけないんだぁー、佐藤さん。また人のノート写してるー。先生にちくっちゃおうかなぁ。」
「わわっ。それは勘弁して、滝君!」

 大和は冗談交じりに言って、ノートを取り返してくれる。場を険悪にすることなく、いつも丸く納めてくれる。

 そんな大和が凄いなと思った。カッコいいなと思った。

 僕は、周りと打ち解けるのが下手くそだから。愛想良く振舞うことも下手くそだから。


 僕は一体いつからこうなっちゃたんだろう?
 小さい頃は普通だった。人見知り程度の可愛いものですんでいたはずなのに……。

 大和が色々と気を利かせてくれるのに、未だに大和以外の友達が出来ない。
 大和以外と仲良くなろうとなんて思えなかった。

 というより……、怖かったのかもしれない。下手に仲良くしようとして、失敗して嫌われることが……。


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