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silent child


 僕は、薄っすらと口を開いた。
 段々息が荒くなっていって、口から漏れた息が、ひゅーひゅーと音を立てる。

「……っ、……っ。」

 皆が僕を見ている。

 38人の仲間。
 隣に立つ先生。
 廊下に居る皆の家族。
 そして――、僕のお母さん。

(喉に引っ掛かった言の葉を……)
「……っ、……さっ。」

(音に乗せ、皆に飛ばせ)
「……よ、……ぅっ。」

(別れの5文字を……)
「……っ、な……っ、ら……っ。」


 5文字が出た。
 だけど、これじゃ誰にも聞こえない。
 もっと大きな声で、もっとはっきりと、確りと届くように。


 今日別れる38人の仲間へ。
 今日別れるお世話になった先生へ。
 そして――、中学生の喋れなかった僕へ。


――別れの5文字を飛ばせ!

「さようならっ!!」


 一瞬の間――。
 そして、目の前の沢山の顔が、一斉にくしゃりと歪んだ。


「「「「「さようならっ!!!」」」」」

 突如現われた竜巻のように、別れの5文字が吹き荒れた。
 この時、本当に風を感じた気がしたんだ。

 その後は――、大洪水。

「うわーーんっ! 良かった、良かったよぉーっ!!」
「やった!! 終にやりやがったっ!!」
「うおぉーーーっ! 高木ーーっ!!」

 皆が大声上げて、泣き出した。
 それを見て、僕の顔は真っ赤になった。

 気付いてしまったから。
 僕が喋れたことを、皆が喜んでくれているんだってことに。

(そんな皆のことが、大好き)

 ふと隣を見れば、矢口先生が肩を震わせていた。
 よく顔を見てみれば、頬が濡れていた。それは確かに、涙の伝った痕。
 もしかして先生も、僕が頑張ったことを、喜んでくれているのだろうか。

 矢口先生のこと、初めは大嫌いだった。
 今までの先生と違って、僕に厳しく、怒ってばかりだったから。

 でも――、矢口先生が居なかったら、僕はあのままだったのかもしれない。
 だから今はもう、先生のこと、嫌いじゃない。

(矢口先生のこと、ちょっと好きかも)


 皆が大声上げて泣いていて、お互いに声を掛け合っていた。
 僕から視線が剥がれ、それぞれが、泣いて声を掛け合うことに夢中だって知っていたから、僕は皆の見ていない内に、隣に立つ先生のスーツを引っ張った。

 目をウルウルとさせ、頬を真っ赤にした先生と目が合う。
 先生は僕の方を、驚いた顔をして見てた。


 今日、絶対に伝えるって、決めてあったんだ。
 あの大切な、感謝の5文字を。


「ありがとう。」


 ちゃんと届いたかは分からない。
 皆の泣き声の中に、埋もれてしまったかもしれない。


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