silent child
8
僕は、薄っすらと口を開いた。
段々息が荒くなっていって、口から漏れた息が、ひゅーひゅーと音を立てる。
「……っ、……っ。」
皆が僕を見ている。
38人の仲間。
隣に立つ先生。
廊下に居る皆の家族。
そして――、僕のお母さん。
(喉に引っ掛かった言の葉を……)
「……っ、……さっ。」
(音に乗せ、皆に飛ばせ)
「……よ、……ぅっ。」
(別れの5文字を……)
「……っ、な……っ、ら……っ。」
5文字が出た。
だけど、これじゃ誰にも聞こえない。
もっと大きな声で、もっとはっきりと、確りと届くように。
今日別れる38人の仲間へ。
今日別れるお世話になった先生へ。
そして――、中学生の喋れなかった僕へ。
――別れの5文字を飛ばせ!
「さようならっ!!」
一瞬の間――。
そして、目の前の沢山の顔が、一斉にくしゃりと歪んだ。
「「「「「さようならっ!!!」」」」」
突如現われた竜巻のように、別れの5文字が吹き荒れた。
この時、本当に風を感じた気がしたんだ。
その後は――、大洪水。
「うわーーんっ! 良かった、良かったよぉーっ!!」
「やった!! 終にやりやがったっ!!」
「うおぉーーーっ! 高木ーーっ!!」
皆が大声上げて、泣き出した。
それを見て、僕の顔は真っ赤になった。
気付いてしまったから。
僕が喋れたことを、皆が喜んでくれているんだってことに。
(そんな皆のことが、大好き)
ふと隣を見れば、矢口先生が肩を震わせていた。
よく顔を見てみれば、頬が濡れていた。それは確かに、涙の伝った痕。
もしかして先生も、僕が頑張ったことを、喜んでくれているのだろうか。
矢口先生のこと、初めは大嫌いだった。
今までの先生と違って、僕に厳しく、怒ってばかりだったから。
でも――、矢口先生が居なかったら、僕はあのままだったのかもしれない。
だから今はもう、先生のこと、嫌いじゃない。
(矢口先生のこと、ちょっと好きかも)
皆が大声上げて泣いていて、お互いに声を掛け合っていた。
僕から視線が剥がれ、それぞれが、泣いて声を掛け合うことに夢中だって知っていたから、僕は皆の見ていない内に、隣に立つ先生のスーツを引っ張った。
目をウルウルとさせ、頬を真っ赤にした先生と目が合う。
先生は僕の方を、驚いた顔をして見てた。
今日、絶対に伝えるって、決めてあったんだ。
あの大切な、感謝の5文字を。
「ありがとう。」
ちゃんと届いたかは分からない。
皆の泣き声の中に、埋もれてしまったかもしれない。
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