silent child
7
「新しい楽しみだって沢山あるはずだ。
新しい学校に行って、新しい生活を送って、もっとカッコイイお前等になれるように頑張れよ!
そして、今以上にカッコイイお前等に成長してから……、またいつか、俺のところに顔を見せに来い!!」
言い切った矢口先生の顔は――、真っ赤だった。
「せんせ、カッケーよ!」
「う゛ー、矢口センセー。」
一人が泣き始めると伝染したかのように、次々と泣き始めていく。
僕も、目の奥が熱くて、喉が熱くて、浅い呼吸を繰り返していた。
「馬鹿野郎! 泣くんじゃない!
俺まで、泣きそうになってくるじゃないか。」
最後は先生も、目をウルウルさせていた。
その後直ぐに、保護者代表が入ってきた。大きな花束を持って。
「矢口先生。一年間、本当に有難うございました!!」
「「「有難うございました!!」」」
皆で声を合わせお礼を言い、花束を渡す。
先生はそれでも、必死に涙を堪えているようで、笑顔のまま、震えた声で「有難うな」と言って受け取った。
それから、皆で並んで写真を撮った。
皆真っ赤。きっと僕も真っ赤。
少し、僕の頬がいつもより緩んだ気がしたのは……、気のせいだろうか。
それも終わってしまえば、後は別れの挨拶だけ。
これで、本当に終わってしまう。
このクラスで過ごす時間も、もう残り僅か。
「それじゃぁ、そろそろ、帰りの挨拶をするぞ。日直、前に出ろ。」
さっきまで震えていた矢口先生の声。今はもう、力強い。
返事の声は、いつまで経っても聞こえない。
だって、今日の日直は――、僕だから。
僕は真っ赤な顔をしたまま、ゆっくりと前に出る。
熱くなった喉が苦しくて、何回も浅い呼吸を繰り返しながら……。
前に着き、矢口先生の横に並ぶ。
「最後だ。決めろよ。」
そう言って、僕の肩を、力強く叩いた。僕を応援するかのように。
向き合った38人の顔も、僕に「がんばれ」と言っているように見えた。
僕は今まで、日直になる度に、皆に迷惑をかけてきた。
僕が日直の日、朝の会や帰りの会が、まともに出来た試しはない。
それでも皆はいつも、僕が喋るのを待っていてくれた。僕が喋り出すのを待ち切れなくて、騒ぎだす奴等も居たけど……。
だけど今日は、言えるような気がする。
だって――、38人を仲間だと思えたんだから。
だって――、今日は最後のチャンスなんだから。
だって――、さっきはあんなに大勢の前で、返事が出来たんだから。
(大丈夫、きっと出来る!)
僕は、ちゃんと知っているんだ。
自分の口で紡ぐことが大切なんだってこと。
だから――、後悔しないように……。
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