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silent child


「新しい楽しみだって沢山あるはずだ。
 新しい学校に行って、新しい生活を送って、もっとカッコイイお前等になれるように頑張れよ!
 そして、今以上にカッコイイお前等に成長してから……、またいつか、俺のところに顔を見せに来い!!」
 言い切った矢口先生の顔は――、真っ赤だった。

「せんせ、カッケーよ!」
「う゛ー、矢口センセー。」
 一人が泣き始めると伝染したかのように、次々と泣き始めていく。
 僕も、目の奥が熱くて、喉が熱くて、浅い呼吸を繰り返していた。

「馬鹿野郎! 泣くんじゃない!
 俺まで、泣きそうになってくるじゃないか。」
 最後は先生も、目をウルウルさせていた。


 その後直ぐに、保護者代表が入ってきた。大きな花束を持って。
「矢口先生。一年間、本当に有難うございました!!」
「「「有難うございました!!」」」
 皆で声を合わせお礼を言い、花束を渡す。
 先生はそれでも、必死に涙を堪えているようで、笑顔のまま、震えた声で「有難うな」と言って受け取った。

 それから、皆で並んで写真を撮った。
 皆真っ赤。きっと僕も真っ赤。
 少し、僕の頬がいつもより緩んだ気がしたのは……、気のせいだろうか。


 それも終わってしまえば、後は別れの挨拶だけ。


 これで、本当に終わってしまう。
 このクラスで過ごす時間も、もう残り僅か。


「それじゃぁ、そろそろ、帰りの挨拶をするぞ。日直、前に出ろ。」
 さっきまで震えていた矢口先生の声。今はもう、力強い。

 返事の声は、いつまで経っても聞こえない。


 だって、今日の日直は――、僕だから。


 僕は真っ赤な顔をしたまま、ゆっくりと前に出る。
 熱くなった喉が苦しくて、何回も浅い呼吸を繰り返しながら……。

 前に着き、矢口先生の横に並ぶ。

「最後だ。決めろよ。」
 そう言って、僕の肩を、力強く叩いた。僕を応援するかのように。
 向き合った38人の顔も、僕に「がんばれ」と言っているように見えた。


 僕は今まで、日直になる度に、皆に迷惑をかけてきた。
 僕が日直の日、朝の会や帰りの会が、まともに出来た試しはない。
 それでも皆はいつも、僕が喋るのを待っていてくれた。僕が喋り出すのを待ち切れなくて、騒ぎだす奴等も居たけど……。

 だけど今日は、言えるような気がする。
 だって――、38人を仲間だと思えたんだから。
 だって――、今日は最後のチャンスなんだから。
 だって――、さっきはあんなに大勢の前で、返事が出来たんだから。


(大丈夫、きっと出来る!)
 僕は、ちゃんと知っているんだ。
 自分の口で紡ぐことが大切なんだってこと。
 だから――、後悔しないように……。


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