[携帯モード] [URL送信]

silent child



*****



 卒業生の行列で、校舎をぐるりと回った後、1年間過ごした教室へと帰ってきた。
 この教室で過ごすのが、本当にこれで最後なんだと実感する度に、寂しくなる。
 僕の使っていたガタガタ揺れる机と椅子、古くなった上履きや鞄、ロッカーだって、全てが愛おしく思えてくるから不思議。


「ほら。早く席に着かないか!」
 いつもガミガミ怒鳴ってばかりだった矢口先生。今日も大して変わらない。
 びしっと決めたスーツは、カッコイイけれど。

 何だかんだ言って、皆、矢口先生のことが好きだから、直ぐに指示に従う。
 最後の日は、気持ち良く終わりたいから。


「お前等も、終に卒業か。」
 教卓の前に立つ矢口先生。話を聞けるのもこれが最後。
 続々と、廊下に皆の家族が集まってくる。
 廊下はあんなにざわざわとしているのに、教室の中は、こんなに静か。まるで、この教室だけが別空間にあるかのように思えてくる。

「言っておくけど、俺は絶対に泣かないぞ。最後は笑顔で別れを言うって決めているんだ。」
 そう言う矢口先生は、確かに笑顔なんだけど……、少し声が震えていたし、頬も目も赤かった。
 矢口先生のいつもと違う様子に、胸がぎゅっとなって、僕まで顔が熱くなってきた。

「今思えば、お前等を褒めたことより、怒ったことの方が多かったんじゃないかと思う。
 3年のくせして、落ち着きがなくて、だらしなくて、こんなんで大丈夫かよ、とか思ったりもした。
 だけど、今お前等の顔を見れば、ちゃんと卒業生らしい確りとした顔をしているんだから、分からないものだよな。」
 ははは、と小さく笑う声が聞こえる。中には既に、鼻をすすっていたり、嗚咽を漏らしていたりする奴もいる。

「受験の結果に、笑った奴もいれば、泣いた奴もいる。でもな、高校受験だけが全てじゃないし、これからだって、何度だってチャンスはあるんだから、泣いた奴は次を頑張ればいいんだ。そして、笑った奴はもっと頑張れ!
 とりあえずお前等全員は、ここを去って、新しい学校に進み、新しい生活を送るわけだ。
 正直言えば……、お前等の顔が見れなくなるってこと、お前等の馬鹿やってることを怒れなくなるってこと、お前等を、よくやった、って褒めてやれなくなることが……、めちゃくちゃ寂しい。」
(矢口先生……)
 正直苦手な先生だったけど……、よく怒られてばっかりだったけど……、僕だって、会えなくなってしまうってこと、凄く寂しい。

「このクラスは、何だかんだ言ったって、団結力だけは、どこよりも負けなかったよな。
 その仲間も、高校進学と同時にバラバラとなってしまうが、その代わり、また新しい出会いがあるんだから、悲しいばかりじゃない。」


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!