silent child
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第7話 『中学生の僕に“さようなら”』
僕はずっと、喋れなかった。
そんな中学校時代とも、もうお別れ。
喋れなかった僕に――さようならをしよう。
時間はあっという間に過ぎていって、今は3月。
あんなに揉めた高校入試はどうだったかって言うと……、無事に二人揃って“合格”。
4月から、僕は○○高校の理数科へ、大和は普通科へと通うこととなった。
これも、面接練習に付き合ってくれた大和や、矢口先生のおかげ。
本番は、火事場の馬鹿力というやつなのか……、どうにか喋ることが出来た。と言っても、声も小さく、一言喋るだけに、かなりの時間を使ったけれど。
それでも、合格には違いないんだ。
――ちょっとは、自分に自信が持てた。
今日は、3月17日。卒業式前日。
本当なら今頃、僕は学校に居るはずだった。
だけど、今僕が居るのは――、自宅のベッドの上。
卒業式のリハーサルで声が出せないことや、大和と一緒に過ごす学校生活が終わりを迎えることに対しての、不安や焦りやプレッシャーが、知らずに体に溜まってしまったようで……、珍しく熱を出してしまった。
本当は、学校を休むのは嫌だった。
だって――、今の時期に学校を休んでしまうと、凄く目立ってしまうから。
だって――、大和と一緒のクラスで過ごせるのは、後2日だけだから。
でも……、卒業式は絶対に休みたくなかったから、今日は安静を取って、休むことにした。
夕方――、大和はやって来た。
「憲太ー、大丈夫かぁー?」
って、いつものように……。
いつもと違うのは、大和が心配そうな顔しているってこと。僕が、ベッドの上で寝ているってこと。
「うん。もう大丈夫。」
無事に熱が下がった僕は、笑顔で答える。
――大和と一緒のクラスで過ごせるのも、明日で最後。
*****
朝――、ダイニングに行けば、お母さんが居た。
「お早う、憲太。」
「おはよう。」
いつもと違って、既に化粧ばっちりのお母さん。
そんなお母さんを見ながら、しみじみ思う。
今日は――、僕にとっても、お母さんにとっても、“特別な日”なんだなって。
それだけのことで、顔が熱くなってきた。
それを誤魔化すかのように、ちょっと俯いたまま席に座る。
「頂きます。」
「いただきます。」
そのままの状態で、ご飯を食べ始める。
朝ご飯はいつもと大して変わらないのに、今日の食卓の雰囲気は、どこか違うような気がした。
「もう体調は、大丈夫ね?」
「うん。」
「寝癖、ちゃんと直すのよ?」
「うん。」
「制服もきちんとね?」
「うん。」
「お母さんも、観てるから。」
「うん。」
引切り無しに話しかけてくるお母さんに、唯、「うん」だけを返す僕。
二人して、既に緊張しているのかもしれない。
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