silent child
10
寝て起きたら、ケンカしたことなんて忘れてる、なんて……、そんな上手くいくはずもなく、
「……はよ。」
返ってきたのは硬くて低い声。
(やっぱり、まだ怒ってる)
まだ大和の怒りが冷めていないことを知って、テンションが一気にがた落ちした。
いつもと同じように、並んで通学路を歩く。
だけど、いつもと同じじゃない。始終無言で、重たい空気。
大和はだんまり。
僕もだんまり。
僕が謝るべきだって分かっているのに、まだ気持ちの整理がついてなくて……、どうしても謝罪の6文字が出てこない。
沈黙した空気の中で、ぐるぐると考える。
突然、大和に腕を引っ張られた。
ブゥーーーーン
その直後、僕の直ぐ横をバイクが走り抜けて行く。
(全然、気付かなかった)
ドキッとして、変な汗を掻いた。
大和は黙ったまま、僕と位置を入れ替わって、車道側を歩いてくれる。
――いつもと変わらない、優しい大和。
「ありがとう。」
「……ん。」
喋ってみれば、怒った大和。
「「……。」」
また沈黙。
学校に着いてからも、大和はこんな調子だった。授業中も、休み時間も、昼食の時も、帰る時も……。
仲直りするまで、きっとこれは続くんだ。
いつもみたいに、一緒に下らないことをして笑ったり、ちょっかいを出し合ってムキになったり、音楽の話で盛り上がったり……、そういうのも、このままじゃ出来ないんだ。
そんなの……、楽しくない。
(だんまり大和のままなんて、嫌だっ!)
どうしよう、どうしようって、ずっと頭をぐるぐるさせていた。
どうしようって言ったって、僕が謝る以外にしか方法がないのに……。
*****
それから数日が経った。
それなのに……、未だに仲直りが出来ていない。
(どうしよう……)
願書提出日は、着実と迫っていた。
ガチャッ
「って、ケンタここに居たぁーーっ!!」
店内の音とともに、丸尾先生の声が飛んできた。
今日は日曜だから、レッスン日。
「かくれんぼ中止なら先に言ってよぉー!おじさん、店内探しちゃったじゃんっ!!」
そう言えば、かくれんぼは毎回恒例のはずだった。
なのに、あまりにぐるぐる考えすぎて忘れていて……、先に教室に来て着席していた僕。
探させちゃったんだとしたら、ちょっと悪いことをしちゃったな。
「まぁ、おじさんよりも早く教室に入ることはイイことだけどな! ケンタ、偉いぞいっ!」
丸尾先生は、髭を揺らしながらそう言った。
僕が失礼なことをしたって、笑って許してくれる先生。
そんな優しい先生が――、大好き。
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