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silent child


 まずは「何で喋らないの?」って不審がられるんだ。だけど、僕には何も言い返せないから、どんどん勝手に誤解されていく……。
 そんで、シカトするとか、感じ悪い奴だとか言われ出して、誰も近寄らなくなる。
 最悪なのがクラス行事。毎回あぶれて、きっと、いつも一人ぼっち。
 それに、授業だって……。
 先生の言葉を聞き逃しても、後から聞ける相手も誰も居ない。
 分からない問題があった時、先生にも、クラスメイトにも聞くことも出来ない。
 欠席なんかしようものなら、ノートのコピーさえ手に入れられない。
 だから――、ある意味、凄く必死に授業に打ち込むかもしれない。だけど逆に……、あっという間に着いていけなくなる可能性だってある。

――そんな学校生活なんか、嫌だっ!

(怖いっ、怖いよっ!)
 今まで大和と離れることなんてなかったから……、離れることがこんなにも怖いだなんて気付かなかった。
 大和と一緒に居るってだけで、凄く安心していたんだってことに、初めて気付いた。

 カレンが、変わるのが怖いって言っていた意味が、今になってよく分かった。
 僕は――、大和と離れるのが怖い。

(やっぱり、僕だけ理数科なんて無理だっ!)
(大和と一緒の、普通科がいいっ!)


「憲太ー! ご飯よ!」
 お母さんの呼ぶ声を聞いて、僕は慌てて涙を拭った。
 部屋を出て、階段を降りてから、一度洗面所で顔を洗う。泣いていたなんてことが、バレないように……。

 ダイニングに行けば、既に、夕食の支度を終わらせたお母さんが、席に着いていた。
 僕は、お母さんの正面に座る。

 お母さんの「いただきます」に続く。
 そして、箸を持たないまま……、僕は口を開いた。
(言わなきゃ)

「お母さん、あのね、僕……。」
 本当のお母さんを知ったあの日以来、僕はお母さんと、以前より話すようになっていた。

「何? 憲太?」
 お母さんの雰囲気も、どことなく和らいだ気がする。

「受験なんだけど……。」
「あぁ、受験ね。頑張っているみたいで良かったわ。気にしなくても、A判定で十分よ。
 あの高校の理数科なんて、お母さんも鼻が高いわ。」
(違う……、僕は、普通科に……)
 思った言葉を飲み込んだ。
 心から喜んでいるお母さんを見て、理数科をやめたいなんて、とても言えなかった。まず科を変える理由が不純だし、それに……、あの日の盗み聞きで、お母さんの想いだって知っているから。

「大和ね、普通科にするって……。」
 僕のことを言えない代わりに、大和のことを持ち出した。

「あら、それは残念ね。」
(それだけ……?)
 僕には物凄く衝撃的だったのに、お母さんの中ではその程度で終わってしまうってことが、信じられなかった。


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あきゅろす。
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