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silent child


 大和の前では、思いっきり泣くことが出来る僕。
 だけど今は――、大和の前でなんか、泣きたくなかった。
 目にぎゅっと力を入れて、唇を噛み締めて……、零れそうになる涙を必死に堪える。

(離れたくなんか、ないっ!!)
 そう叫んだら、涙まで一緒に零れてしまいそうだったから……、口さえ開けなかった。

「今までの俺だったら……、二人で普通科行こうなって言っていたかもしれない。
 だけど――、厳しくする矢口先生や、一人でも頑張っている憲太を見ていたら……、このままの俺じゃいけないって思ったんだ。
 憲太の将来とか、先のこと考えると……尚更さ。俺が普通科行くからって後に着いてくるんじゃなくて……、ちゃんと自分の行きたいと思える方に行って欲しいんだ。
 俺が居ない所でも、やっていけるように……。」

(将来なんて、そんな先のことなんて知らないっ!!)
(大和とずっと一緒に居たいっ!!)
(大和が居ない所なんか、知らないっ!!)

 涙と一緒に、言葉も、体の中に飲み込まれていく。
 大和の言っていることは正しいって分かっていたし、大和が僕を思って言ってくれているのも分かっていた。僕はこのままじゃいけない、変わらなきゃいけないってことも、ちゃんと分かっていた。
 だけど――、先のことへの不安で一杯で、嫌な感情ばかりが溢れてくる。
 溢れる不安で混乱して、興奮している僕には、激情を止めることは出来なかった。

 喉のあまりの熱さに、耐えられなくて……、勝手に言葉が飛び出していく。


「嫌だっ!! そんなの嫌だっ!!」

「僕はっ、普通科に行くんだっ!!」

「将来なんてっ、知らないっ!!」

「矢口先生なんかっ、嫌いっ!!」

「そんなこと言う大和だってっ、嫌いっ!!」

「大和なんかっ、嫌いだっ!!」

「嫌いっ!! 嫌いっ!! 大嫌いっ!!」


 涙が零れないように、目をぎゅっと閉じて、力一杯叫んでいた。
 はぁはぁと、肩で息を整えれば、次第に落ち着きが増してくる。
 勢いだとしても、言ってはいけない言葉を言ってしまったことに気付き、胸がちくりと痛んだ。

――だいきらい。

 そんなこと、思っていないのに……。
 思わず言ってしまった。大和の耳にもしっかりと届いてしまった。
 大和に、酷いこと言ってしまったんだから、直ぐに謝らなきゃと思って、瞑っていた目をそろりそろりと開けた。
 一瞬――、大和の顔が、凄くショックを受けたかのように歪んで見えた。だけど、それも一瞬で、直ぐに真顔に戻る。


「あっ、そう。」
 大和の今まで以上に低い声に、心臓がドクリと音を立てた。

「勝手にすればいい。大嫌いの俺と、同じ普通科なんて、受ける意味ねぇーと思うけど。」


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