silent child
1
第1話 『心の代弁者』
言いたいのに……言えなかった。
頑張っているのに……声が出なかった。
そんな僕の心を代弁してくれたのは――。
2年生があともう少しで終わるという頃、僕と大和は職員室に来ていた――。
「先生、俺、憲太と一緒のクラスじゃないと泣いちゃう〜〜。」
大和は、担任の先生の前で泣き真似を始めた。目薬とハンカチまで用意して、大げさな程に演じて見せる。
「ばぁーーか。演技ってバレバレなんだよ。」
先生は、手に持っていた日誌で大和の頭をバシッと叩く。口調は冷たく聞こえるけど、先生は笑っていた。
「イテッ。ちぇっ、バレたかぁーー。でも本当だかんな!俺、憲太と離れたら寂しくて登校拒否になっちゃうかも〜〜。ね、お願ーーい?」
大和は負けじとお願い攻撃を繰り出す。
だけど――、
「お前はそんな繊細じゃないだろうが! そんなこと約束出来るわけないだろっ!
さぁ、仕事の邪魔だ。行った行った。」
先生は無理だと笑顔のまま言い放ち、猫か何かを追い払うかのように、しっしっと手を振った。
「ふんっ、先生のケーーチ!
憲太、行こうぜ。」
大和に声を掛けられ、手を引かれるまで、僕は一歩離れた所で二人を見ていただけだった。
始終無言で、無表情で……、ただ見ているだけだった。
本当は――、お願いしたらどうにかならないかなって、言い出したのは僕。
一緒のクラスじゃないと泣いちゃうのは僕。
寂しくて学校に来れなくなっちゃうのは僕。
全部、僕の気持ち。
本当は、僕が言うべきこと。
言いたいけれど、言えないこと。
いつもそう。僕が何も言わなくても……、大和はまるで、自分の気持ちのように言ってみせる。
僕が気持ちを伝えていなくても、大和はいつも悟って助けてくれる。
*****
あっという間に三年生になった。
今日は始業式であり、クラス発表の日。みんな一度、2年時のクラスに集まることになっている。
先生が教室にやって来た。軽い挨拶を終えて直ぐ、一人ずつ出席番号順にクラスを発表していく。
不安で堪らなくて、僕はずっと下を向いていた。両手をぎゅっと握り締め、何度も心の中で神頼みをした。
「高木憲太、1組。滝大和、1組。」
(良かった!同じクラスだ!)
先生の言葉に顔を上げると、ばちっと先生と目が合う。そして、先生はにこっと笑った。
それを見て、僕は顔に熱が集まっていくのを感じた。
きっと、先生が配慮してくれたに違いない。先生には、僕の気持ちをお見通しだったに違いない。そう悟った。
先生の「移動しろ」の声が掛かり、みんなゾロゾロと荷物を持って移動を始める。
僕もみんなに倣って荷物を持って席を立つ。だけど……、先生の前で一度足を止めた。
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