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マトメロで教訓シリーズ
BIOHAZARD


【相手を気遣うことは優しさの上級者】




「なぁメロ〜、もし本当に住民がゾンビ化しちゃったらどーする…?」

「は?」
ソファに座っていた俺は、呆れ顔で床に寝そべりゲームをするマットを見ていたと思う。


「…くだらないこと考えてないで、はやく情報処理しろよ」

自分でもわかるくらい呆れ声が出てる。アイツはいつも唐突に突拍子もないことを聞いてくるから、いちいち構っていたら身がもたないのだ。


「くだらないだなんてメロさん!こんなHOTな話題ないって」

 にこやかに振り返るマットはキラキラとした瞳で、怪訝そうな目付きでチョコレートを舐めるメロとはまるで正反対だった。

(IFの世界はあくまでも仮定。無意味な気もするが…)

 しかしメロは、先ほどゲームを始めたばかりのマットに「ゲームをあきらめろ」と言えなかった。壁掛け時計は1時を指しているため、かれこれ7時間はマットにパソコンを見続けさせていることになる。
 本来、相手の気持ちを理解することに長けているメロは、集中力の短いマットにしては弱音を吐かずよくやってくれた、と思っていた。また、人間は休みがあるから働けることを知っている。


(ここら辺で一息つくか)


「俺は……お前の場合、気付いた時には既に逃げる側ではなく追い掛ける側になってると思うぜ」

「えぇっ、俺 BAD END決定組?」

「皆、空気感染からは逃れられないだろう」

 唸るマットはゲームの主電源を切り、呉座を組んで座り直してからテーブルに置かれているメロの拳銃をチラリと見た。


「でもさ、感染経路が空気だとしても汚染されるまで周りはゾンビ。つまり敵。生き残るために武器の確保するっしょ!」

 マットは指を立てて左手で拳銃を真似ていた。
 まぁ、俺もまずは武器を調達するな

「…日本じゃ拳銃の入手は困難だな」

「仕方ない、お料理包丁片手に戦いますか」

サバイバル…!?


「あ!!でも包丁振り回すメロは怖いなぁ……危ないし疲れるだろうし返り血でメロ汚したくないし、俺だけ装備するからね」

 マットはにへらっと笑うと、そのままゴーグルを額上まで持ち上げた。
 正直こういうのに弱いのは認める。だけど弱いの分かってて反応を楽しもうとするマットに悔しさを覚えるのも本音。
 とりあえず恥ずかしい台詞をサラッと言うマットにクッションを投げてみたが、ひょいと避けられた。

「チッ」
「えぇー」
しかし笑いながらマットは続ける。


「ん!あと電源を切った携帯とラジオ、目覚まし時計に方位磁石にバンダナ、マッチ、香水も必要かも」

 ニッと笑うマットに上手くはぐらかせれた気がする。

 悔しそうに顔を赤らめていたメロは、軽く咳払いをし、平常心を保つためマットの話に集中した。


方位磁石は迷った時のために使い、バンダナは止血した時に使うためだと分かる。機器類の電源を切るのも、不用心に音を出し自分の場所をゾンビに教えないための鉄則だと考えられるが、目覚ましや香水は想定外の返事だった。
具体的すぎる。
きっと何か策があるに違いない。

(ゲーマーだしな、生き抜く術が頭に叩き込まれてるのかも)

 メロには珍しくマットが頼もしく見えた。


「あ、車無いしチャリで逃げる?」

「非効率だ。バイクがいい」

「に、見えるだろ?でもバイクや車だと絶好に事故るって」

必ずほとんどの人間が焦りで車を使い逃げると想定出来るから、そうすれば図らずも道は乗り捨てた車や事故車で大渋滞になる。
自転車の方が断然安全


「無駄によく考えてるんだな」

「イエース。もちろんニケツでもいいよ!しっかり抱きついてきてOK!!」

「自転車でンな恥ずかしいこと出来るか。後ろで立ち乗りする」

「え、…じゃあ俺の背中にメロの」

「?…」
「あ!…や、なんでもないよっ」

話題をそらすマットが妙に怪しい。


「なんだ?お前の背中に俺の…?」
「わーわーメロ!」

慌てるマットも超あやしい。


「ひざ、いや、太ももか…」
「うわわっメロ!話続けようぜ!」

……まさか!?…


「ん…の、変態っ」
 メロはソファにある小ぶりのクッションを、今度はマットの顔面に投げつけた。今度こそテクニカルヒット。

(こんな万年発情期みたいな発想のやつが頼もしい訳がない!)


 メロが前言撤回する中マットは小さくうめき、片手でクッションを引き剥がした。


「もーメロってば短気なんだからぁ……いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらい。想像なんだしさ」

「嫌だ。お前の想像の中の俺が危ない」
 淡々と語るメロにマットが項垂れたのは言うまでもない。



「で。仮に街を行動したとして、お前は生き残るためにどこに行くつもりなんだ?」


「んー……うん、学校を含めた公共施設人やショッピングモール、集まる場所は候補外かな……あっそもそもバイオのゾンビは、潜在意識の中に生前通い慣れていた場所や『思い入れの強い所』へ行こうとする意識と『無条件な餓え』ていう要素があるんだ。つまりこの2つが行動を律する土台となる定義であって、うん、だから」



「要するに人混みは避けるにこしたことがないって訳か」

 マットはこくこくと頷く。


「だから、森や海、動物園ももちろんダメだな。そもそも動物や昆虫はT‐ウィルスの侵食が速いから、人知を越えた強さになってうろついてるはずだ」


「結局逃げる場は人と一切を遮断できる所か…牢屋のようで自由な…」

 メロの中でまとまりかけていた場所、それは「無人建物の屋上」。
 マットはすかさず挙手した。

「たぶん屋上も、やり過ごせると思ったらアウト。奴らは飢えてる訳で、ウィルスを媒介した鳥が襲ってこないとは言い切れない。しかも逃げ場がない上、こっちが空腹になった時、下へ降りる勇気が果たして沸くのか?て話しになる」


「そうだな、下にはゾンビ。食べ物も当然安易に手に入るとは思えない……悩み悩み、悩んだ挙句に飛び降りて自害という思考回路が、ほとんどの人間だな」

 メロの発言は正論だった。


「うん、だから地上にとどまってた方がリスクを背負うけど立ち回りはしやすい。…静かな所としてTeraなんてどう?」


「Tera…寺?ウィルスは空気感染だろ?自浄作用で地中へウィルスが行き届いて、腐敗した亡骸がよみがえる」

「ヒィィィイ!!恐ろしいー!こう分析していくと逃げ場ないね」


 マットは二の腕をさすりながら笑っていた。


「でもここは日本。ゾンビに足掴まれるのは埋葬地に限ってだ。日本の場合、たいていの葬儀は火葬だろ?まず死体が地中から這い出てくることはないだろう。墓地の周りには、根が毒素成分で強い彼岸花も多い」


「そうか!じゃあ動物も虫も比較的少ない!」
わー生き残れるー

 嬉しそうに何故かにやけてるマット。これで生き残れるとか思ってるなら、不安定な箇所に気づいていないだろう。


「だがマット、ゾンビ犬が来ないとは言いきれないぞ」

「あれ、なんか逃げ場が無い的な…?」
つーかなんか
考えても考えても
生き残るのはあきらめろ的な?
他の惑星に行くしかない的な?


「いやメロ!マットさんは希望を捨ててないぜっ。T‐ウィルス作った博士殺して俺も死…」

「思いっきり希望の無い若者じゃねぇか!」

「うー…よし!ここは落ち着いて。犯罪はよくない、そうだよな。つか抗ウィルス薬をGETしに行きたいけど、交通手段と情報が限られているから却下。となると…」


 唸るマットを横目にメロは時計を見た。かれこれ20分は駄弁っている。
 そろそろ会話を切り上げるか…?


「あ!分かったメロ!自我がある内にとりあえず発狂してみて、民家を片っ端から燃やそう!」

 メロは軽く頭痛をもよおした。

「悪質すぎだろっ!」
「ゾンビほどではないよ?」


「……じゃあ聞くが、放火する訳は…?」

「ゾンビは炎に弱いじゃん?とりあえずゾンビ全て燃やせば、俺達二人は確実に生き延びられるって計画なんだけど」


「結局俺達がゾンビになる道は避けられてねぇだろっ。あーもー休憩は終わりだ!」
















マットはメロと一緒にいられれば満足なようだが、メロには(明らかに)伝わっていない模様


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あきゅろす。
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