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マトメロで教訓シリーズ
THE HOUSE OF THE DEAD4


【共同社会において相手を理解することは大切です】






「チッ…ここも汚染されてやがる」
 汚水が流れ出る下水道で、荒れた息を整える間もなく現れた巨大な蜘蛛。大きさは腰ほどはある。
 捕食の対象は明らかに自分たちだ。歳若そうな男子二人は慌ててサビた鉄格子の旧式エレベーターに乗り込んだ。重たいレバーを引けば、お約束な展開。
 巨大蜘蛛も前足を鉄筋に引っかけて、もの凄いスピードで階下から這い上がってきた。

「ぎゃーメロ!早く加勢して…っ」

 情けない声をあげる相棒の銃が弾切れ間近で、ペラベラム弾のリロードが終わった俺は、蜘蛛の弱点である口に焦点を合わせて引き金を引いた。
 銃声と共に飛び散る得体の知れない怪物のカケラ。黄みどり色の血は無いだろう。

「ふぃーっ、気持ち悪い蜘蛛」
「一人で倒せないなら手榴弾投げろよ」
「イヤイヤ、蜘蛛ごときに使えませんて」

それにほら、平和ボケしてた腕の感覚取り戻さなきゃだからさ

やられたら意味ないだろーが


 ため息を吐きつつ気づけばエレベーターは上限へ。その階は鉄パイプが幾重にも壁を巡っていたし、オイルの剥げた所から赤黒いサビが蔓延し汚水が滴っていた。潔癖の気があるメロは先へ進みたくないと思いつつも、ここにいても何にもならないので黙ってエレベーターの柵を開いた。張りつめた空気の中、鉄格子のフロアに足を踏み出す。

「て、まだ地下かー。結構移動したと思ったのに…」
 マットは残念だと言うように肩を落とした。

 下水道を介して、この忌まわしき化物の出現地を早々と抜け地上に出ようという作戦だったが、地図も無いのに道ある所へ構わず逃げていたのが原因で無駄に終わった。仕方がない。こうなったら地道にカードキーを入手して、正面玄関から脱出していくしかない。そういうシナリオだということだ。

「あきらめろ…泣きごと言ってると殺られるぞ」

「へーい」

 メロは、マグナム弾の補充をするマットをわずかに一瞥した。
 さすがにこんな所で煙草を吸う気にはならないのか、煙の無い今ゴーグル越しでもよく分かるマットの表情は、鼻歌でも歌い出しそうなくらい楽しそうだった。

「余裕そうだな」

 メロは突然現れた動きの素早いゾンビを無表情で撃ち倒す。
 遠くに見える蛍光灯の光へ向かい走りながら、横から跳ねてくるカエル型ゾンビでさえ的確に一人で撃ちのめすメロ。

「えーメロほどでもないよ…?なんつーか、ガチャプレイ久しぶりでニマニマ、みたいな?」

 マットが意図せずメロの撃ち残したカエルを銃弾で倒すと“Good +1000”の文字が頭上に浮かび上がる。

「Wow!? ボーナスキャラ」

 口笛を吹いて敵を撃ちまくるマット。上下に振れば弾がリロードされるガンコントロールを手際よく扱う様は、先程より確実に慣れてきていることが見受けられた。

(これがゲーマーの成せる業か……)



 不本意ながら、只今マットにとって聖地とも言えるゲームセンターに来ている。




 『日本のアーケードゲームを制覇してやるぜ☆』とかなんとか意気込んでいたので、散財防止のために着いてきたらこの様だ。ガンシューティング1プレイ100円の魅力に呑まれた赤毛が、惜しみなく2枚入れて2プレイモードに設定してしまったのだ。
 結果、無償で店側にお金を与えるのも腑に落ちないので、お金でサービスを買った訳だ。


「て、わっ何だコイツ…っ」
 メロに太ったゾンビが襲いかかってきた。

「メロ大丈夫か!?ひたすら銃を左右に振って!振りほどけるから!そうっ、まさよしの時の要領で!!」

ま、マサヨシ…
てかなんかマットが熱い

 一人で試行錯誤を繰り返し世渡りをしてきたメロだが、歩んできた道が道のため、若者が行く場所へはあまり遊びに行った経験がなかった。このような機械に関しては、器用なマットの方が断然吸収率はよかったと言える。


「汚い手でメロに触んなよ」

 サラリとそう言ってメロを襲っているゾンビを撃ち倒すマット。先ほどまで泣き言をもらしていたはずの相方は、次いで現れる敵に対し、今では無駄な動きもなく的確に人体急所を仕留めていった。
 気づけば二人の前をふさいでいた腐乱死体は全て倒されている。

「ひゅー、危なかった〜…」

 向かうところ敵なしと言えるほどの腕を持つマットが、ひどく安堵して息をつくものだから、妙に呆気にとられてしまったメロ。不覚にも頼りになるなと思ってしまった。


 そうこうしてる間に画面には中間成績が出された。


「ランクA…」
「お互いにね」

 このゲームは各ステージ終了後にプレイヤーの力量ランクが発表され、それの上位の者にはHPを全回復させるという特典がある。そうして人ならぬ人を倒し物語をすすめていくという内容なのだ。
 マットは休憩を兼ねて伸びをしながら、俺らすげーなぁ、なんてもらしてる。だから「楽しい?」なんて笑い突然かけられて、思わず生返事をしてしまった。
 正直なところ、あまり楽しくはない。人命を奪ってきた忌まわしき過去・マフィア時代を嫌が応でも思い出すからだ。しかし敢えて付き合いの悪いことを言わなくてもいい。程度の低い悩みは少し騒いだくらいが紛れるというものだ。




「それよりマサヨシって誰だよ」
「あ、隠語隠語ー第1ステージのボスの意」

いつの前にそんな情報を…

 呆れつつも、ふと気づく。いくらゲーマーのマットだからといって、最近来日したばかりの日本のアーケード事情を把握しているのはおかしい。ゲームの隠語や攻略方法は、取り立てて流すような情報でもない。

「マットお前、前にもここに来てるだろ…?」

 マットはギクリと肩を上げたが、俺が怒らないで黙っていると「…バレた?」と申し訳なさを隠すために笑いはじめた。


はぁ…全く

「こうやって遊んでいれば、悩みも葛藤もなく暮らせるんだろうな…」

 サラリと口を出たささやかなメロの願望。言い終えて、これはゲーマーに対する嫌味にしかならないことに気づく。

(いくら旧友でも言い過ぎたよな…)
 悪意はないにせよ申し訳ない。
 案の定、隣を見ればマットは苦笑いをしてうつ向いていた。

 謝ろう。


「マ…」
「こいつらはさ…」

 黙っていたマットが突拍子もなく喋りだす。


「元は人間な訳だけど、今は人を襲うサンプルになった。だから世界を守るためには誰かが銃を持たなきゃならないんだ。


 でもそれは本当の正義か?
 命を土台に成り立った世界が幸せか?」



 メロはチク…と胸が締め付けられた。



「ゲームの世界も難しくなったよな。遊ぶだけなのに哲学しなきゃならないなんて、悩みも尽きないね」

「マット…」
ゲームでそこまで悩めるのはお前くらいだ


 心の中でそうツッコみ、マットの伝えたい主旨がわかった。いや、伝えようとしていたかは分からないが、確実に俺はマットの気楽な性格に救われた気がした。


「要するに悩みすぎだ、と…」
他人からすれば
それは些細な悩みだと


「うん。けどね悩むなとは言わないよ。メロの悩みはメロにとって大きな訳だし…」

 穏やかに微笑むマットはゴーグルを頭にずり上げた。

「たださ、解決しないうちは自分に出来ることを精一杯にやればいいんじゃない?
 考えても正義が何だ、幸せが何だって分かんねーし。考えられたとしてもそれは偏見か常識だ」


 苦笑いするマットは、泣きそうにたたずむメロの肩口を指の甲で軽くノックした。

「俺はさ、だからメロがやってきたことが正しいか間違いか分かんないよ」

 沈む目線のメロの名を、マットは優しくささやいた。




「だけど俺はメロを見捨てたりしない。一人で抱えてばかりいないで、たまったらいつでも話せよ…?」



 じんわりと涙腺がゆるむ。ゆっくりと顔を見上げれば、場に不釣り合いなほど真顔で真っ直ぐ俺を見つめているものだから、慌てて視線を反らした。
 不覚にも、嬉しいのは嘘じゃない。


「だからメロ!!」
 マットはメロの手を掴むと輝いた瞳でメロを見た。


「今は悩みなんて忘れて、一緒にこの台メンクリしようぜ!」
















ムード壊しの天才
THE HOUSE OF THE DEAD4攻略間近


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