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ファンタスティックルーム
開放的な景色が広がる一方、私は取り巻く空気の変化を感じとった。
ぴりぴりと静電気でも起こしそうなほど。
校門を出て学校が見えなくなっても続いた。
家に着くと、財前くんが玄関前で立ち止まる。

「自分の家は隣やろ」

くいっと親指で隣を指して、私に促した。
この展開に誰が頷いて隣へ向かうのか。
耳に走った衝撃を隠せず、信じられない様子で疑った。

「そこおっとき」

おとなしく待つよう言いつけ、服が詰め込まれた紙袋を持って玄関に戻る。
隙間から見えた形で自分の物だと確信した。
説明がなくては意味が分からない、という気持ちを表す顔面に紙袋が放られた。

「引っ越すはずの子が挨拶来ぃひんってなんや親が心配しててな」

手短に説明し始める。
昨日、親が帰宅した時に知らない子がソファーで寝ていて大騒ぎ。
彼女かと勘違いされたため「迷子を拾った」とごまかした。
しばらく家族は眠い目で考える。
夜の街に追いやるのも気が引けるから泊めてやろうと思い至ったところで、カレンダーを見た父が叫んだ。
よく聞き取れなかったが、今日空き家に越してくる女の子はまだ挨拶に来ない。
きっとそれがこの子だ、と言っていた。

「苗字も合っとるみたいやし、お隣さんやったんか」
「えっ。えっ?」
「ましな冗談探せや次は。トリップとか古いで」

トリップした家が隣だったとは信じがたい事実。
近寄って確かめた表札にはっきり“桧之”と苗字が書かれてある。
何を言ってもドアを閉める体勢に移す財前くんは止められないと悟った。
少しばかり沈黙が生まれ、別れの挨拶を探す。

「ありがとうございました」
「早よ行けや」

頭を下げて動かずにいたら、ツッコミ口調で追い払われる。
短い、本当に短い同居人との生活が終わった。
とぼとぼ部屋に入っていく私の目に飛び込んだ光景は……。

「ちょっとしたファンタスティックルーム?」

頑張っても空き家に見えない幻想的な世界。
春なのに飾られたクリスマスツリー。
床にはトナカイ人形が立たされている。
まるで先ほどまで誰かが住んでいたかのような作りに、鳥肌が腕を覆う。
勝手に片付けてはいけないと思わせるには充分な現象だ。
私は台所に行き、その場を離れた。
トナカイの位置が移動した奇怪事件は、手洗いを終えて戻ってきた瞳センサーも反応しない。





To be continued.
20080314

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あきゅろす。
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