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自称スピードスター
いよいよ教室の前に行き着き、私だけが廊下に残された。
サイズもぴったりな制服を整えて出番に備える。
みんながどんな反応をするか楽しみだ。

「桧之、ゴー!」

期待を膨らませていたら叫ばれた先生の声で中に入る。

「二限始まっとるから紹介しといた。机は白石の横、あっこや。ほな出席確認」

自己紹介かと思いきや、喋る場を与えられることなく指定席へ。
今日四天宝寺の生徒になった人間を誰も見ていない。
予想外な扱いの悪さに戸惑うが、気にしたら負けだ。
小さく万歳をして隣の白石くんに、よろしくと言うと話しかけられた。

「さっきの続きやけど」
「つ、続き!?」
「そない驚かんでも……これで会ったの三回や言うたやん」

下敷きで隠した顔を焦って出した。
窓際の席が似合う人だ、と輝く目に打たれながら思う。

「正確には『俺が見たんは』やわ。先生と一緒に走ってたやろ」
「もしや目撃を」
「すごかったで。全力疾走」

再び恥ずかしくなり下敷きを握った。

「俺な、転校生を転校前に見たことないねん。ええ経験できて良かった」

嬉しげに語る白石くんが癒しを与える様子を見て、そういえば彼が中学生であることに気づかされた。
真田くんたちとは別の意味で年相応に見えない魅力的な風格。
早くも私は虜と化していた。

「お。芹澤は休みか、忍足」
「何で俺に」
「家近いっちゅー理由で聞いたらあかんのか」

出席確認中のやり取りに、ぴくぴくと耳が動く。
声こそ初めて聞くものの、あの後ろ姿は見覚えがありすぎる。

「知らんて。あいつ来てへんの?」
「謙也っ!」

彼は私の隣にある机が空席か確かめるため、体ごとこちらを向いた。
その拍子に見えたのはなんと謙也の顔。
やっとこさ立ち上がった途端、教室が静まった。
ここで驚かなくては萌え博士の名がすたる。

「自分ら友達やったんかい」
「ちょお待ちや先生!」
「やかましい。桧之、教科書は使わんさかい用意するもんないで」

ご機嫌ななめの状態で言われて謙也は縮んだ。
クラスに二人もテニス部がいて、喜びのあまり、踊り狂いたい衝動に駆られる。

「あいつとも知り合いなんや」
「テニス部を調べたから知ってんだ。自称スピードスターの忍足謙也。氷帝に同い年の従兄弟あり」

怪しまれると厄介なことになりかねない。
一方通行の知り合いだと強調しておき、回避する。
ノートも筆記用具も手元にない中、これでいいのか私は自分につっこんだ。

「その観察眼を買ってマネージャーに入れたいわ」
「へ?」

一言で人の人生を変えてしまいそうな力が素敵だ。
さすがに冗談だろうが、いつもの癖でにやける。
するとチョークが飛んできて、二人の間を通過した。

「屁こく女はチョップすんで。桧之さん」

にっこり笑う担任の先生。
腹の底に住む黒い物体に睨まれたような感覚は気のせいと思い込む。
まだまだ学校の仕組みが分からない今。
理解できていることは、チョップのおかげで足が完全復活を遂げた。
これだけだ。





To be continued.
20080213

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