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二組決定
目が回る、足も曲がる。
動悸や息切れにはご注意を。
職員室に着き、いつの間にか席に座るオサムちゃんの笑った顔が素敵である。

「入れ!」

解放された手はわずかながら温かい。
大人の匂いに触れて満腹になり、体が重く感じる。
太もももピクピクとしか動かない。
あれが慣れた走り方ではなかったから筋肉痛よりも響く。
こんな時、極上級の楽園にいざなってくれる対象人物が現れたら回復するかも。

「疲れたんか。ほなそこで聞いてな」
「はい」

思い通りにならなくて当たり前だ。
とにかく机が入り口の近くで安心し、さっそく教師っぷりを間近で拝む。

「三年全クラス、人数空きがないんや」
「つまり床に座れと?」
「机なら余っとるで。演芸用に一クラス一セットずつな」
「つまり床に」

噛み合うことを知らない会話。
私の姿が見えていますか、あなたは。
とにかく全クラス空きなしという非常事態は分かった。
これからどうしますか、私は。

「好きな番号何や。言うてみ」
「好きな絆創膏は」
「ちょっ、無理あるでそれ!」

とぼけたらツッコミが入った。
クラスと番号の二つに共通点を見いだせず、悩む。
まさか生徒を試しているとでもいうのか。
ならば適当に答えて自滅するのは御免だ。
間違えたところを狙い、罰ゲームの試練が襲ってくる展開もありえる。

「早よ決めんと転入できへんよ」

いきなり何者かに右肩を叩かれた。
前を向くが、手の届く範囲には誰もいない、となると怪しいのは背後。
恐る恐る振り返った所に思わぬ人物がいて、目を見開くと同時に背筋も伸びる。

「見つかったか白石」
「おらへんわ。みんな自習しとる」

白石と言われて一歩進む彼の登場は二度目だ。
自分の手を右肩に乗せてみたいが、ためらう。
夢見る少女じゃあるまいし、間接的な握手などしにいく場合では……。

「行くで。ついてき」
「え、あの、番号言わなきゃ」

危ない妄想へ到達しつつあった世界が消える。
こういった現実への引き戻され方は新鮮で嬉しい。

「桧之決まったで! 白石が二番選んだから自分は二組決定や」

知らないうちに話が進められていた。
オサムちゃんは頷き、名簿に何かを書き込む。
雑と思えるが生徒の好みを取り入れた方法。
なるほどと納得し、歩き出して手招きする白石を追いかける。

「転校生なんやな。財前と知り合い?」

質問が唐突すぎて目が泳いでしまった。

「ま、まあ軽く。それよりなぜ代わりに番号言ってくれたのでしょうか」
「ぎこちないな。同じ三年やし敬語使わんでええって」
「了解。まだこれで二回会っただけなのに」
「三回やで」

私は答えに詰まる。
この顔を見落とすわけがないので絶対に二回のはずだ。
スカートを握って言い聞かせた瞬間、凄まじい威力の攻撃を背中に受ける。

「自分でスカートめくったらあかんやろお!」

衝撃波と互角か、あるいは究極拳法をもしのぐほど。
つまずきそうになったところ、白石くんが支えた。
その救いの手をもってしても地味に痛みが襲う。

「何かましてんねん先生。遅刻はいつものことやけど」
「チョップ。破廉恥なの嫌いやねん。さ、教室行こうや桧之」

あれが破廉恥とは考えにくい行為だと私は信じている。





To be continued.
20080202

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あきゅろす。
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