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元気ええ子やな
《四天宝寺中学校》

門に書かれた華々しい文字が招く。
生徒の登校と被らず来たけれど、まだ早かったのか。

「テンコーセーなら職員室行ったほうがええんやろ?」
「と〜お〜や〜ま〜」

自然な返答を練っていた時、誰かの声が加わった。
ちらっと様子をうかがうと目の前は萌え沢山。
お宝映像により、活力を取り戻せた。

「遅刻やぞ! 髪くしゃくしゃなっとるから笑いとれたけどな」

この方はまさか……。
もっと近くで見るため、門を通り抜ける。
後ろ姿も派手な彼が金ちゃんを校舎に向かわせて背伸びする仕草は、充分に見る者をときめかせた。
今こそ声かけ絶好のチャンスを迎えたわけだが。

「おっ。んなとこおったら風邪引くで」

逆にかけられた。
眩しいから振り返らないで、なんて言いたくても言いづらい。
振り返ったものは、もう遅い。

「風邪薬は二割引で買いますが何か」
「返してきよった!」

爆笑の渦に飲まれたらしく、彼は自ら髪を乱して笑いこける。
意外と髪が綺麗だ。
ずっと立ちっぱなしで足が痛くなったが彼も笑いに飽きたはず。
いくら何でも十分以上続きはしない。
冗談半分に思い、見ると大きな声で歌っていた。
放っておくのも一つの手だが、そうにもいかなかった。
ここを抜ければ財前くんたちの所へ行ける。
感激はそこら辺においておき、話を切り出す。

「つかぬことをうかがいますが渡邊先生ですよね?」
「よう分かったな。俺は泣く子も笑かす渡邊オサムや」

問いかけた側が恥ずかしくなる答えが返ってくる。
ウケを狙い、失敗に恵まれるタイプだ。
一応名前が当たったので良しとしよう。

「もしや転校生か自分は! 桧之希紀っちゅー女」
「はい。三百六十度、女です」

答えた途端、オサムちゃんは握った手に力を入れる。
三秒後にはさらわれる形で走っていた。
慌ただしくも意識が校舎の中へ向く。
転校生扱いということは、追い返される可能性が消えた。
上手すぎて怖い話もこの域までくるとむしろ清々しい。

「笑いに染まってへんけど(笑いが)わかる人間を探しとったとこや」
「すいません聞こえません!」
「気にせんとき! こっちの話こっちの話」

人間を染めるだとか言っていたと思うがごまかされた。
本当であれば危険な実験だとはいえ、何色に染まるか興味はある。
自分なりに解釈して視界をオサムちゃんに戻した。
さすが体育会系の部で顧問を務めるだけあり、体力は尽きない様子。
平均あたりの数値を行ったり来たりする私の運動神経では、いつか疲れ果ててしまう。
なんとか走りを維持できるのは大人臭のおかげだ。
活力となってくれる匂いに刺激を受けて駆ける。
この先に、豪華でユーモアな香りに包まれた場所があると信じて。

「元気ええ子やな」

後々これが素敵な生活を呼ぶこととなるのだ。
私はそんな展開すら想像できずに、オサムちゃんとつながった手を眺めていた。





To be continued.
20080108

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あきゅろす。
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