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フラれたわ
医務室を出て、私たちはみんなが待機している場所に向かった。
各校のジャージが入り乱れるこの聖地で、萌えセンサーが猛烈に力を発揮しそうになる。
こんな時は、ミンミンゼミでも拾ってきて頭にでも乗せておくのが一番だ。
そう、頭に……。

「なんか赤なってへん?」

考えている最中だった。
いきなり私の頭部をポンっと叩き、白石くんが顔を覗き込んできたのである。
辺りがざわついているからか、他の部員はこちらの様子をさほど気にしていない。
金ちゃんなんか、「コシマエどこやー!?」と叫んでどこかへ行ってしまった。
もし、ここで鳳くんと出会ったがために紅潮したことを打ち明けたら、みんなにネタにされるのがオチだ。

「ナンパでもされたん?」
「い、いや」
「希紀。俺と付き合うてくれへん?」
「い、いや」

こうして白石くんにも幸せな尋問を受けられるし……。

「って、ええええっ!?」
「はは、フラれたわ」
「いいい、今のは、そのっ……!!」

初めて告白というものを受ける女子の気持ちになれた気がする。
私のしどろもどろな返答を聞いた部員たちが近づいてくるのが足音でわかった。

「自分がナンパしとるやん白石。そんな軽い奴ちゃうやろお前」

これほどまでに顔がいい男の人がナンパなどしようものなら、世界中の萌え研究所の人々が彼の生態を調べに日本へ上陸するに違いない。

「謙也ぁ!!」
「うおっ! なっ!?」

悶絶したくなる気持ちを抑えて、思わず謙也の両肩を掴んだ。
それに驚いたようで、一瞬肩がビクッと跳ね上がったが、そのまま話し続ける。

「謙也だけだよ、私を誘惑の手から解き放ってくれるのは」
「はっ、離せや! ただの茶番劇をほんまに受け取るなっちゅー話や!」

私から距離を取り、拒絶の意を表す謙也。
原因こそ謎だが、一氏くんとは違う何かを思っていると感じる。
なぜだろう。
私は曲がりなりにも四点宝寺テニス部のマネージャーなのだから、部員の気持ちも汲み取れる存在でなくてはならないのに。
……マネージャーだから?
そういえば、以前他のマネージャーがこの部にいたと聞いたけど、それと何か関係があるかもしれない。

「熱いラブシーン中すまんな。千歳どこおるか知らんか?」
「探して参ります! この桧之希紀、マネージャーの命にかけて!」

悩んでいても仕方ないため、オサムちゃんが与えてくれたミッションを元気良くクリアすることにした。
敬礼で返すと後ろから小さな野次が飛ぶ。

「命やなくて名にかけろや。見つからんかったら死ぬんか」

水を差してくる財前くんにだって、今ならきっと軽くあしらえる。

「私の死因は萌え死以外ありえませーん」

あっかんべーをして、速やかに準備に移る。
熱い太陽の下で涼しみを帯びた下駄の音にたどり着くために。
しゃがんで靴ひもを結び、靴下を少し上げる。
深呼吸を挟み、目を閉じてクラウチングスタートの体勢に入る。
マジで走り出す一秒前。
目を開けた瞬間に事件は起きた。

「夏風邪とかやないよな? 俺が代わりに探したってもええけど」

なんと、財前くんが同じ目線になるようにしゃがみ、私の額に手を当ててきたのだ。
反動で跳ね上がってしまった。
さっきの謙也を彷彿とさせるびっくり具合である。

「いいい行ってきますっ!!」

スペシャルサービスに感涙し、猛烈に腕と足を動かして駆け出す。
ただでさえ誘惑の多い全国大会の会場で、夢半ばに散ってしまうのは避けたい。
不純な理由とはいえ、他校の生徒とも交流を深めなければ、萌え博士の名が廃る。

「あわよくば誰かに会いた……じゃない。千歳くんが先だ!」

走りながら、ターゲットが歩いていそうな場所を探した。
現在、アリーナテニスコートにはおびただしい数の人々が行き交っている。
選手、監督、応援団、観客、記者、大会関係者など、見渡す限り人だらけだ。
千歳くんの身長は確か194センチ。
どこかで頭一つ飛び出ていてくれと願う。

「よっ」

マジで出会った一秒後。

「丸井くん……!」

突如として現れたのは、立海ジャージに身を包み、爽やかに手を挙げる丸井ブン太くんでありました。





To be continued.
20180309

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あきゅろす。
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