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変顔撮り
運命。
運命ってなんだっけ。
ある日突然出会った人と永久の愛で結ばれる……。
おとぎ話の世界でよく見かけるムフフな展開。
それを私は今初めて体験した気がして、うっすら目を開けてみた。

「起きました?」

ああっ。
右斜め上から麗しの声が降ってくる。
顔を直視できないのは、私が彼のファンだからだ。
どうやら気絶したらしい私はベッドの上にいる。
それを見下ろしながら、優しく話しかけてくれる男の子。
まさかこんなスペシャルサプライズが待ってるなんて。

「俺、そろそろ行きますね。あっ、無理しないでください。では」

そんな簡単に行っちゃうのー!?
瞬時に起き上がり、去り行く人物に呼びかけた。

「あの! 選手の方ですよね? お、お名前うかがってもよろしいですか?」

好きな人へ。
私がテニプリを愛するきっかけを作ってくれたあなたは、罪な人です。
毎日あなたのことを考えては心が萌え萌えします。

「鳳です。鳳……長太郎」

何より、胸がドキドキします。
これが、恋をしているという証拠なのでしょう。

「お気を付けて」

軽く頭を下げて微笑む彼の素敵さっぷりといったら。
他の誰にも勝る破壊力がある。
大きな背中が扉に向かう頃、私の脳内は彼一色となっていた。
ガチャン、という音だけ残して消えたその姿に、しばらくときめきを隠せずにいる私。
鳳長太郎くん。
萌えるぜちくしょう。
このドキドキタイムは何者にも止められない。

「希紀ちゃん、倒れたんやって!?」
「小春ちゃー……ぶしっ!」

たとえ突然現れた小春ちゃんに抱きつこうとして全力で阻止されたとしても。
てか、どこで得た情報だろう。
てか、頭いたっ。
無言の頭突きほど怖いものはないよ君。
幸せな時間が吹っ飛んじゃったよ君。
小春ちゃんと付き人が、どでかいたんこぶを作った私に近寄ってくる。

「選手で倒れる奴はおるけどマネージャーで倒れる奴はおらへん。四天宝寺テニス部始まって以来の珍事やで」
「ユウくんそのへんにしとき。希紀ちゃん、戻りましょ。みんな待ってるわ」

そうだ、これから選手入場のお時間だった。
手招きされて、激しかった胸の鼓動がようやく元に戻った気がした。
てか、財前くんいるしっ。
てか、頭いたっ。
ふかふかのベッドとおさらばし、二人に続いて扉を目指す。
そこには財前くんが突っ立っていて、少々驚いた。

「財前くんも、心配してくれたんだ」
「小春先輩はええ男探しついでに、ユウジ先輩はその用心棒に、俺は希紀の……」

ずるっ。
なぜか運良く床に落ちてあったバナナの皮が、私の足を一瞬にしてつまずかせた。

「変顔撮りのために」

なぜか運悪く携帯を構えていた財前くんに、スカート全開の恥ずかしい一枚を撮られてしまった。
ふ、ふん。
いいもん。
心配されたもん。
派手にずっこけた私のショットを写メに収める君とは違う。

“お気を付けて”

あんなきらめく笑顔を向けてくれた。
思い出すたびにやけそうで困る。

「気ぃ付けや、そこ」
「ぎゃっ! カエル!」
「せやから言うたやん」

鳳くん。
漫画の世界にもカエルっているんだね。
さっき会ったのに、もうあなたに会いたいです。
てか、写メ消してっ。
てか、頭いたっ。





To be continued.
20130128

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あきゅろす。
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