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宍戸さん
八月十七日、日曜日。
とうとう、とうとうスペシャルウィークがやってきた。
心拍数も脈拍数も上昇中。
全国大会の会場は、人で溢れかえっている。

「よその学校でいっぱいやなぁ」

選手入場まであとわずかとなり、学校名を書いたプラカードを渡された。
足が震えてくる。
当日の雰囲気とは、こんなに生まれたての子馬気分を味わえるものだったろうか。

「緊張抑えるまじない、かけたろか?」

さっきから独り言をつぶやいたり、隣の私に誘惑を囁いたり、余裕な感じの白石くん。
清々しいほど爽やかだ。

「白石くんに話しかけられるだけでリラックスできます。ありがとうございます」
「残念やわ。とっておきのやつ、用意しとったんやけど」
「お手洗い行ってくる!」

さらなる誘惑に負けてしまうくらいなら、この場を離れるほうがまし。
私は謙也もびっくりの高速ダッシュで、トイレへ急ぐ。
水道の蛇口を軽く捻ると、冷たい水が流れた。
有名校である四天宝寺に、周りの視線が集中するのはわかる。
でも、やっぱり視線は注がれる側じゃなくて注ぐ側がいい。

「ふぅ」

今、ここにはテニプリのキャラがわんさかいる。
果たして、萌えに敏感すぎる心臓は無事に生還できるのか。
深呼吸を一つ交え、やっとこさ通路に出た。

「ったく、おっせーなぁ」

ハンカチで手を拭いながら戻る足を止めたのは、彼だった。

「しっ……」

壁に寄りかかり、何やらご機嫌斜めに誰かを待つ。
たくさんの人が通り過ぎていく中、その姿ははっきりと捉えることができた。
彼は口を抑えてじっと見つめる私に気づいたらしく、帽子のつばを後ろにやる。
どうしよう。
一歩ずつこちらへ進んでくる。

「おい、お前」

ひゃあああ〜……。
心臓がパックンチョされたらどうしてくれるつもりだ。
責任取って写真の百枚や二百枚、撮らせてよ。
正面まで来て私の顔を覗き込む強い瞳。
直視はせずに少し目を逸らし、眉あたりを見てそう訴えた。

「すげぇ顔赤いぜ。大丈夫か?」
「は、は、あい」

後ずさりするように下がると、背中に何かが触れた。

「あ、すみません」

ピクピクピクピク。
至急応答願います、我が萌えセンサー。
今私の背後から聞こえる声を発しているのは、もしや……もしや……。

「お待たせしました、宍戸さん」
「何分待たせんだよ」

お・お・と・り・ちょ・う・た・ろ・う・く・ん。

「どうしました!?」
「しっかりしろ!」

周りの音が遠くなる。
どうやら私は床にぶっ倒れてしまったようだ。
無理もない。
テニプリでもっとも好きな人が目の前に立って動いているのだから。
その時、額に何かが触れた。
繊細な冷たい手。
誰のものだろう。

「熱い……発熱でしょうか」
「とにかく医務室だ医務室!」

ああ、鳳くんだったのか。
そう感知した後、萌えセンサーを停止させた。
心臓がいくつあっても足りないとは、まさにこのこと。
やはりこういった舞台に萌え博士が挑むのは少々残酷である。
八月十七日、日曜日。
とうとう、とうとうスペシャルウィークがやってきた。





To be continued.
20111025

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