[携帯モード] [URL送信]
何をおっしゃる
「おお、また一段と大きなりよったな」

自販機で買ったらしい缶ジュース片手に、アリーナコートを見上げるオサムちゃん。
そうだ、一人じゃなかった。
ついでにつっこむと、この建物は常に変わらない大きさだと思う。
伸びたり縮んだりの成長を遂げる生き物とは違うと思う。

「あいつらどっか行ったんか?」
「あの中に」
「ほんまか! ほな俺も行ってくるわ!」

帽子に手をやり、目を光らせる。

「みんな俺に内緒でテニスの聖地に足踏み入れるのはあかんでぇ!」

待て二十七歳。
風のごとく走り去ろうとするオサムちゃんの服を掴んだ。

「ま、待ってくだされ」

今は主人公と四天宝寺の顔合わせ中。
その時オサムちゃんはあそこにいなかったから、私が止めなければならない。
とりあえず薄笑いで話題を探す。

“禁煙しなきゃ奥さんできませんよ”

違う違う。

“醤油こぼしたら目立つ服ですね”

違う違う。

「せや、桧之。自分、財前くんと付き合うとるん?」
「何をおっしゃるうさぎさーん!」

不意打ちの話題がなだれ込んできた。

「全力で首振りながら叫んだら何言うてんのかわかれへんで。おもろいからええけど」

これは真っ向否定のサインだ。
恐れ多くも私が財前くんとつ……付き……つつき合うなどと。
いや、大歓迎だけれども。
ベンチに座って煙草を吹かせるオサムちゃんは、少し大人の香りがした。
黙っていれば普通にかっこいいタイプなのだろうか。

「あいつ、全然俺の言うこと聞かへんねん。白石みたいな決め台詞作ったり、コスプレしてお笑いテニスやってみっちゅーてんねやけどな」

四天宝寺の個性的すぎるテニスは顧問の一声によるものだった。
財前くん、ノリがいいのか悪いのか……。
今頃アリーナコートでくしゃみしてたらおもしろいな、なんて私はのんきに考えた。

「彼女の頼みなら断れへんタイプに見えるから、桧之に言うてみたんや」
「彼女じゃなくても彼には提案しただけでシバき倒される自信があります」
「はっはっは! すっかりあいつと主従関係にあるんやな!」

大口開けて笑いこけるオサムちゃんが眩しい。
絶対モテるよ。
明るいし、冗談上手いし。
スポットライトがなかなか当たらない監督が多いテニプリで、ひときわ輝いている。
部内で一番人気の白石くんのように変わった趣味があっても、普通にモテるよ。
早く誰か来て。
大人の魅力に取りつかれ、禁断の恋に落ちる前に。

「コシマエー!」
「もう行ったで金ちゃん」

はしゃぎ天使が戻ってきた。
えらく久々に会った気がする。
確か堀尾くんのお兄さんと旅してたんだっけ。
生コシマエが聞けて大満足だ。

「希紀ー!」
「金ちゃーん!」

お互い走ってガッシリ抱き合う。
小さな体ながら強い力で背中に手を回され、息が苦しい。

「感動の再会ね」

なぜか紙吹雪が舞い、作った本人らしき小春ちゃんはすすり泣いていた。
それにしても……。

「会いたかったなぁ」
「誰に?」
「あなたに」

主人公の名前を言うより先に千歳くんが姿を現し、つられて答えた。
私は萌えなしでは生きていけず、干からびる。
したがって、テニプリのキャラはみんな私の水分的存在である。
例えば目の前でだらけた格好を晒す彼だって。

「人の顔見てにやけんなや。シバくでアホマネ」

気持ち悪い妄想がバレた。
組み合わせ抽選会が終わった後、白石くんに泣きつこう。
近所付き合いを円滑に行うための助言をもらおう。
とびっきりのアホ顔で反撃すると、財前くんはボタンを一つ閉めた。
……すみません。
全国のあなたのファンが水不足に困ってしまうので、ただちに開けてあげてください。





To be continued.
20110425

[*前][次#]

44/49ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!