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はぐれたら
なんてこった。
一人、異国の地でさまよえるド変態を生み出そうというのか。
素敵な世界に捕らわれて忘れつつあったけど、私はトリップしてきたひよっこだ。
東京の土地に詳しくはなく、ギブアップ宣言したくなる。
しかし、私もテニプリ愛読者。
キャラの一人や二人、自力で探してみせる。

「四天ボーイズどこじゃー!!」
「ここじゃボケ」

空に叫んだ。
すると、聞き覚えのある声が後ろからかかった。
懐かしい感じ。
振り向かなくても誰だかわかる。
ここで初めて人と出会った時、そのまんまの流れだ。

「光、そない怒らんと……。希紀ちゃん、探したわよ」
「探すも何も、普通に一本遅れのバスに乗っかってきただけやけど」

財前くん、小春ちゃん、謙也。
不安を取り除く面々が、揃いも揃って並んでいる。
ほら、呼べた。
テニプリ愛が迷子の危機を救ったんだ。

「謙也は希紀はんがおらんから心配してはったで」
「なっ、何言うとんねん銀!」

ほう。
いいことを聞いた。
ちょっぴり私を受け入れてくれてるのかな。

「バスん中でオロオロしとったばい」
「千歳まで! お前ら逃げるなら今のうちやで! ほな追いかけるか〜……って逃げんかい!」

走る準備ができていたにもかかわらず逃げない二人にノリツッコミ。
やっぱり謙也はツッコミの師匠だ。
私は賑やかな空気を好む。
ばかなことやって、ふざけて遊んで。
そんな四天宝寺のみんなが大好き。
ずっと一緒にいられるなら、どれだけ幸せだろう。

「希紀、今度はぐれたら承知せぇへんで」

思いにふける私の頭をコツンと叩き、財前くんが制服のボタンを一つ開けた。
おかしいな。
何か夏特有の色気が漂いまくってる。

「もしはぐれた場合は?」
「お前の部屋で一緒に寝たる」
「心よりお待ちしております」

ってこのパターン、前にも体験した。
結局来ないじゃないか。
寝ないじゃないか。
でも、永遠に待ってます。

「桧之さん、入らんと?」

言われてはっとした。
アリーナコートに足を踏み入れるか否か。
みんなについて行けばイエスだが、おそらく今行くと……。
主人公に会っちゃう!?
いやいや、だめだめ。
彼とは全国大会で会いたい。
先を進むみんなの最後尾から聞いてくれた千歳くんに、手を振る。

「私は本番の日に入る。みんな行ってらっしゃい!」

本当は私も行ってらっしゃいするつもりだった。
さすが東京。
途切れない通行人がこちらに視線を注ぐ中、お母さんっぽく見送る。

「言われんでも行くわ」

いないと思ったら、背後にいた。
追い越しざまに吐き捨て、スタコラサッサ。
この男の子、顔はかわいいのに敵に回すと怖い。

「一氏くん」
「あ?」
「もし私がはぐれたらどうする?」

財前くんみたいな答えでなくていい。
特典的なものが欲しいだけなのだ。

「小春と逃避行する」

はぐれろってか。
全力ではぐれろってか。
ええ、はぐれますとも。
我が身を削ってはぐれますとも。
だからお願い。
冗談でいいから「桧之と逃避行する」に言い換えて。
私はすねて、他のみんなに聞いていった。

「石田くん」
「ワシは特にないわ」

一人目で一蹴。
謙也も、右に同じというジェスチャーで逃れた。
はぐれ隊発足(三分前)間もなく、存続が危ぶまれる。
傷心の私。
見かねたのか、千歳くんはみんなを先に行かせて歩いてきた。

「すぐ戻るけん、心配せんでよかよ」

ポンッ。
大きな手で触られた肩が絶賛沸騰中。
四天宝寺のボディタッチは反則だ。
不意打ちが多くて、ときめき数が増える。
小さくなる千歳くんの姿を最後に、みんなアリーナコート内へ入っていく。
留守番を預かり、ド変態は再び一人になった。





To be continued.
20110407

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