[携帯モード] [URL送信]
そんままで
一人寂しく部屋でダラダラしていると、ピンポーンが鳴った。
私は初めてここで白石くんと会った日の出来事を思い出しながら、玄関へ急いだ。
まさか白石くんが。
デートに行こうだなんて言われたら、シュッポッポって蒸気機関車並みに出発するよ。
私が乗せてどこまでも行くよ。

「はーい……って何してんの」
「甥っ子がうるさいねん」

正体は財前くんであった。
半分ほどがっかりしつつ、しかし半分ほど大喜びで部屋へ通す。
東京に向かう明日が来てほしいようなほしくないような、微妙な気持ちだったんだ。
話し相手になってもらえれば嬉しい。

「その年で叔父さんってのもすごいよね」
「別に普通やろ」
「じゃなくて!」

部屋に着いて座ろうとした時、真正面から腰を引き寄せられた。

「手厚く迎えてほしかったん?」

男女が立ったままこんな体勢でいるのは非常に危険だと、脳が警告する。
反対に、萌え信号が青に変わり、いけいけモードへと突入した。

「こんな変なムードを作り出す財前くんが恐ろしいです」

年下の色気はたまらん。
お互い離れ、机を挟んではす向かいに座る。

「その年で男慣れしとるっちゅーのもすごいよな」
「別に普通……って嫌みかこら。私が今のやりとりのどこに男慣れしてる要素見せたよ」

君のペースにハマりそうなギリギリの段階で踏みとどまった私を褒めて。
財前くんのいつもと違う様子を見て、言うのはやめた。

「四天宝寺にはな、前もマネージャーがいてたんや」

新事実が発覚し、真剣な顔が私を黙らせる。

「去年の秋に転校してきたその先輩はもともと弱小校のマネージャーで、後からここに送り込まれたスパイやったって聞いた」

私と同じ中三だ。
たぶん女の子かな。
光の速さで仲良くなりたい。

「それがわかった時、特に仲良かった謙也さんは結構落ち込んでたわ」

ああ、それで謙也は私がここに来た当初寄りつかなかったのか。
長年の謎が解けた。
まだなんとなく疑われている気がするけど。

「でもその先輩、今消息が掴めへんねん。四月になった途端ぱったり姿消えてもうた」

無理だ。
ものの数秒で付け加えた“女の子もテニプリキャラも丸ごと仲良し計画”は無理だ。
仰向けに寝転び、脱力感を味わう。

「私に話してどうしろと?」
「この部屋の住人やったから、希紀見とるうちに思い出しただけや」

この部屋の住人やったから……。
この部屋の住人やったから……。
この部屋の……。
鳥肌が私の肌という肌すべてを覆った。
石田くんが、魔物がいるとか何とか言っていた。
クリスマスツリーも木馬も、その子が飾ったまま遺されてるの?
ていうか財前くん思い出すの遅っ!
どうやら四天宝寺は鈍い人の集まりでもある。

「俺はマネージャーおってもおらんでも変わらへん。そう考えとったけど、あんたはどっか違うな」
「どこが」
「一緒におるとあほが移る」

ばかにした言い方に悔しくなり、上半身を起こす。

「簡単に治らないよ、あほは」
「そんままでええ」

すると、財前くんが隣にやってきた。
間近で見るときつい。
顔が綺麗すぎて直視できない。

「希紀は、そんままでおってや」

不覚にもドキッとした。
見つめ合う私たち。
ほど良い距離感。
何この恋愛シーンみたいな展開。
言いたいことだけ言って、さっさと帰っていく財前くん。
何このほったらかされ名人。
今日はたくさんの萌え……ではなく、衝撃をくれた。
明日から財前くん、そしてみんなと大冒険が始まる。





To be continued.
20110307

[*前][次#]

41/49ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!