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忍足視点
携帯電話を切る。
あの男との激しい論争を俺の勝利で飾り、実にいい気分だった。

「誰と話してたんだよ侑士。打ち合いしようかって時によ」

岳人が退屈そうに聞いてきて、ぴょんと地を跳ねた。
そのうち地団駄に変わる可能性も考えられるが、今は問題ない。
俺は上機嫌のまま相手する。

「めっちゃべっぴんなマネージャーが四天宝寺におるらしいねん。名前は桧之希紀やて」

あくまで“奴の話だと”。
大阪の人間のべっぴん感覚は謎が深く、裏を返すとストライク範囲が広い。
でも、いとこの強い主張に免じて女のことは信用してみよう。

「そんなことより早くラケット持てって」
「足、綺麗やとええな」

下手な願望ばかり口走る俺に、岳人はキレる一方で、とうとう反撃が始まった。

「絶対汚いぜ! ぐにゃぐにゃのひょろひょろ。な、これでラケット持つ気になったろ?」

夢を壊す、この一言で。
こういう話は子どもには早すぎたらしい。
全国大会出場が昨日決まって浮き足立つのはわかるけど、若干カチンときた。

「岳人のあほ」
「侑士が変なこと言い出すからだろ」

拗ねる岳人を放っておいて、周囲に視界を広げた。
こいつとじゃ女の足の良さは語れない。

「他の奴に聞いてみるわ。鳳」

離れた所で休憩している後輩を呼んでみた。
首に提げたタオルを畳んで手に取り、歩いてくる。
相変わらず爽やかな雰囲気だ。

「はい。何ですか忍足さん」

また全員分の洗濯までしてくれるのか。
ちょっとは休めと思いつつ、用件を伝える。

「四天宝寺のマネージャーがめっちゃべっぴんなんやて」
「は、はぁ」
「足は綺麗やと思う? それともぐにゃぐにゃのひょろひょろやと思う?」

ジェスチャー付きで選択肢を与えた。
俺は岳人のほうを見て勝ち誇った。
年下の意見は素直なものが多い。
代表格の鳳なら、きっと前者を選ぶ。
なぜか?
“足が綺麗な女”は全世界の男の理想だから。

「どんな形でも、女性は素敵です」

お、お、ま、じ、め。

「よっ! 鳳、模範解答!」

岳人が口笛を吹いて喜ぶ。
しまった。
大真面目に悩んで出した答えだ。
聞いたこっちが逆に恥ずかしい。
もてはやされて少し照れ気味の鳳。
俺は、その様子を見ながら呆れる後ろの人物にも一応声をかけた。

「お前は答えきれへんよな。シャイやし」
「う、うるせぇ!」
「いとこに頼んで紹介したるで。どや?」

見る見るうちに赤く染まる顔。
おそらく頼みはしないけど(借りができるから)紹介くらいはできるだろう。

「おらっ、行くぞ長太郎」
「あ、はい!」

俺の提案をよそに、鳳を連れて練習に戻っていった。
宍戸があんなに赤面するとは。
初めて見た。

「からかいやすいやっちゃ」

ついでに跡部にも聞いてみようか。
冗談半分で考えついた標的には、声がかけづらかった。
練習、練習、練習。
ひたすら汗を流し、技術の強化に励む姿はまさに帝王。
それを目の当たりにすれば、女の足の件は後回しでもいいと思わざるを得ない。
俺も鍛え抜こう。
全国大会は、もうすぐだ。





To be continued.
20110225

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あきゅろす。
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