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猿の仲間か
目が覚めても自宅ではない代わりに冷たい感覚が走る。
昨日はソファーで寝たつもりだったが、今の位置はソファー横の床の上。
寝相が悪いくせに、調子に乗ってみたらこの有り様だ。
夢で終わらせてくれない女神を思い浮かべ、一生涯まとわりついていくことを誓う。

「やばっ」

財前くんに言われた単語を思い出してしまった。
急いで起こさなければ、と分かっていても進まない。
どこへ行くべきか答えが浮かんでこないのである。
しまいには混乱して暴走を始め、風の匂いは柔らかいと知る。

「希紀うるさい」
「い!?」

立ち止まった先に素敵な男がいた。
だるさ全開の物言いは健在で、ラフの一言に尽きる格好もツボだった。

「誰それ」
「あんた、希紀ちゃうかったか」
「違わないよ。希紀って名前してます」
「やっぱ希紀やん」

さっきからこの男は何を狙っているのだろう。
名前を呼び捨てにすることで萌えさせる。
そんな新手の方法に私は引っ掛かる。
彼の手口には要注意だ。
出会い二日目にしてちょっぴり性格を掴めた。
これを皮切りに、じろじろ見続ける運動開始。
貴重な時間の無駄遣いと捉えられるが、萌え補給及び収集の一環と思えば容易いもの。
途中で財前くんは溜め息をつき、嫌そうな顔で後ろに持っていた物を出す。
ビニールで包まれた服の、普通と違うデザインにピンときた。

「うちの制服や。なんや知らんけど起きたら俺の部屋にあった」
「わあ、良かったね!」

その場のノリで拍手してみたらスタコラサッサ、用意を終えて出ていく。
置いてきぼりだ。
激しく投げられた制服を手に取る。
同封の手紙には《三年。トリップ転校生の桧之希紀へ》と書いてあった。
もしかするとこれを着て学校へ行けば、転校生として扱われるかもしれない。
即刻行こう、と頭の回転速度を上げて着用した制服を眺め、外に出た。
無理に等しい願望で、現実的に考えるほど悲しくて痛い。
いろいろ考えていると、左後方から突っ込んできた何かの強い力に負けて倒れ、突撃者と一緒に尻餅をついた。

「痛いわぁ」

両者向かい合わせとなり、道の真ん中が少女漫画色に染まる。
小さな体に古さの残るラケット、極めつけは赤い髪。
見覚えのある子が至近距離にいて、鼻から出るものが出そうだ。
ひとまず落ち着き、衝動買いしたい気持ちを抑えて話す。

「きっきき、金ちゃん」
「誰や姉ちゃん。猿の仲間か」

猿語に間違われた。
ストレートな疑問を放置しながら「自分は転校生」と伝える。
彼は学校までの案内人がおらず、困っていることを察したのだろう。
私の手を掴んで走り出す。
尋常でないスピードについていける自信はなかった。
だがやはり風の匂いは柔らかく、遅れをとらずに済んだ。

「到着! ここやで、姉ちゃん」
「あ、ありがとうございまーす」

陽気な知らせに敬語で返す。
呼吸は乱れていない。
息切れも、一周回ると忘れてしまうのである。





To be continued.
20081226

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あきゅろす。
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