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大歓迎やけど
「食う」ってまさか私を食料として見てるのか白石くん。
煮るも焼くも焦がすもご自由にって意味なのか白石くん。
たっぷり料理した挙句、「この後スタッフが美味しくいただきました」とテロップで流すつもりか白石くん。

「な、なんでこんな所に」
「毒草が埋まってそうな気がしてな」

意味不明な理由を述べ、凍りついているクラスメートに歩み寄る。
忍足の謙也さんは現在、絶賛凍結中。
そんなに破壊力ある攻撃加えたっけな。

「起きろや。謙……也!」

“也”の部分で強めにチョップをかます。
ストップウォッチがあれば正確な時間を計測できるが仕方ない。
そのまま数秒待たされた。

「痛いわ!」

反応遅っ!
時間差でやっと目覚めた謙也は、白石くんに威勢良くつっこむ。

「ストレッチ済まして試合入り」
「いきなりやな」

向こうでパコーンとボールを打ち合う音を耳にし、私も頭が醒めた。
今は部活中だ。
三年二組は名残惜しく別れる運命なのだろうか。
忍足従兄弟で話していた内容を聞く間もなく。
指の骨を鳴らすスピードスターよ、さらば。
地面を蹴り、超越した脚力で一瞬にして消えた謙也に手を振った。

「そろそろ戻らなきゃ」
「桧之さんは待ちや」

はい、喜んで。
私の腕(※夏服)を掴み、にこにこ顔で呼び止められては従うほかない。

「ちょっと今考えてんねん」
「何を?」
「桧之さんをどうやって俺派に変えたろかなって」

腕を解放しながら得意げに囁く。
どうやっても何も、どうぞご自由に。
しかし、最近男も女も揃って白石くんの恋人騒動を追っている。
一途な恋が好きな私は、冗談っぽく探ることにした。

「白石くんは恋人いますか」

つくづく口が上手すぎる。
彼女の噂が絶えないうえ、誰彼構わず口説くようじゃ王子様イメージがた落ちだよ、この人は。
意外な質問だったらしく少し黙った後、素敵スマイルに戻った。

「気になる? ま、桧之さんがなってくれるんやったら大歓迎やけど」
「ほほほほ、本気でしょうか」
「どやろ。そういう自分こそいろんな噂立てられてんで」

木に寄りかかり、腕組みしつつ微笑んだ。

「財前と禁断の関係やとか」
「え」
「謙也と早くも付き合っとるとか」
「え?」
「少し前なら千歳とも怪しい仲やとか」
「え!?」
「はっきりさせんと二股三股言われるやろな」

根っこから広がった、信憑性の薄い噂。
妄想するだけで鼻から出るものが出そうだ。
首を高速横振りさせ、恥ずかしさのあまり私は叫ぶ。

「人の妄想だよ! わたしゃ音楽家……じゃなくて独り身の子羊メェーさんさ!」

必死さが弁解や言い訳に聞こえるかな。
でも、誤解はされたくない。
確かにどれか一つ当たれば万々歳だけれども。

「こないだ一緒に遊べへんかったやん。せやから今度行こな」
「あ、みんなにも伝えとかなきゃ。いつ?」

ポケットの中に入っていたビスケットを食べ、メモ帳も取り出す。
おかしい。
返答がない。
心配になり、見上げる。
するとカラスの物か、真っ黒い羽が飛んできて私の肩に落ちた。

「言うたらあかんよ」

いつもの笑顔がそこにあった。
立てた人差し指を唇に当てる。
ただし、ピアスなし。
あれ、前にもこんなパターン体験したような……。

「二人やし」

久々です皆さん。
桧之希紀、今度こそ人生初のデート。
内緒すぎます白石くん。





To be continued.
20110103

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あきゅろす。
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