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謙也派
玄関の前で隣人を待ち構える。
こんな近くに四天宝寺に通う生徒がいれば共に登校したくなるのは当然だが、何度“財前くんと学校へ行こう”計画を実行しても成功率は低い。
必殺・スタコラサッサが厄介だ。
どんどん距離が開き、気づいた時にはみんなが使う通学路を歩いている。
二人仲良く登校なんて夢のまた夢。
財前家の表札を眺めてくしゃみを放つと、ちょうどドアが動きを見せた。

「あほ希紀、また待っとったんか」
「おはよ。ん、先輩は?」
「あんなん学校でだけや」

本日一発目の萌えさん、おはようございます。
横に並んで道路に出る。
この位置は死守せねば。
だいぶ見慣れた街並みを爽やかな太陽が照らし、雰囲気作りは充分すぎるほど良し。
残すは途切れない話題の提供だ。

「全国大会、緊張するなぁ」
「十七日まで日にちなんぼある思てんねん。今から緊張すんなや」
「開幕はそうだけどほら、くじ引きとかさ」
「くじ引きが何やねん」

会話終了。
桧之希紀、撃沈。
財前光、スタコラサッサ記録更新。
大阪の落語家あたりに弟子入り願おうか。
たった今着いた学校の部室で、頭を悩ます。
とりあえず明るく挨拶回りでもして、打開策のひらめきに頼るとしよう。

「石田くんおはよう! 『くじ引きって何やねん』って言われたらどう答える?」
「抽選などでくじを引くことや」
「そのままじゃん!」

真面目な答えが返ってきて、しゃきっとつっこむ。
今日も第一試合は謙也と石田くんだ。
コートに入って準備万端な石田くんの相方が見当たらない。

「謙也は?」
「校長の銅像んとこにおるで」

一瞬場所がわからなかった。
すぐポンと手を叩く古いリアクションで、白石くんに理解したことを伝える。
そこに一つ引っかかる疑問点が浮上してきた。

「もしや謙也って校長が好……」
「ちゃうちゃう。気になるんなら行ってき」

いざ抜き足差し足忍足足で、足いっぱいに奇妙な銅像へ急ぐ。

「熱いよ」

服が汗ばみ、速度を落とす。
いつ見ても変な校長……じゃなくて銅像にたどり着いた。
二つの人影が確認できる。
私は空気を読んで草むらに潜み、おとなしく縮こまる。
告白タイムは邪魔するべからずだ。
謙也もモテるなー。

「あの、財前先輩に渡してください!」

はい、違ったよ。
うっすら頬赤く染めて第一声を待ってた謙也が想い人じゃなかったよ。
後輩宛ての手紙をどんなふうに渡すのか興味は湧く。

「うわっ、なんでおんねん」

真横を通り抜ける途中で見つかってしまい、姿の隠しようがなくなった。
色鮮やかな草を被ったまま立ち上がる。

「なんや言いたげやな」
「謙也はモテないなと思ってすんません」
「こいつが意外にモテとるだけや」
「そうだよね。クラスの女子にも白石くん派と謙也派がいるし」
「そんなもんおるんかい。ちゅーか何も用ないなら戻りや」

謙也とは延々と会話が続く不思議。
しかし、突き放されてはおもしろくない。

「あるよ」
「は?」

深く息を吸い込む。

「私は謙也派だから!」
「はっ!?」

言ってやった言ってやった。
私が恥じらいなく言えて、且つこの反応を示すのは謙也しかいないもの。
銅像より固まるなど純情の証。
存分に笑い、コートに向かって回れ右をする。

「桧之さんはやっぱ食っとかなあかんわぁ」

なぜか背後にいた笑顔の白石くんと目が合う。
三年二組、三人集合。





To be continued.
20101222

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