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先輩?
小春ちゃん・一氏くんペアと謙也・石田くんペアの試合終了後。
監督直々にお褒めの言葉をもらった。

「ほーう。桧之、スコア付けに狂いなくなったな」

今まで“0‐15”を“0‐30”と書いたり、“15‐45”を“15‐15と書いたり、間違いだらけのスコアを披露して一氏くんにめちゃくちゃ怒られた。
「“0‐0”がなんでいきなり“0‐30”に飛ぶねん」とか、「さっき“15‐30”やったのが“15‐15”かい。数減らすっちゅーことは過去に行っとんな自分」とか。
付けるたびに過去と未来を行き来する旅人の気分でいたのも今は昔。
私は褒められて伸びる人間だ。

「マネージャー業務に必死です。もうスコア付けしか生き残る道がありません」
「お前マネージャー一人やろ。なんで頑張らな蹴落とされるみたいな危機感抱いてんねん」

ザイゼンマンが現れた。
ちゃんとつっこんでくれるが、グサグサ刺さるのがたまにきず。
小馬鹿にされた感じを受け、己の中にささやかな反抗心が芽生える。
ベンチに座り、軽くファイティングポーズをとった。

「財前くん〜。先輩にお前呼ばわりはやめとけや」
「ほな何呼ばわりすればええんですか」
「大喜利で決めよか。白石! 全員集めてきぃ」

オサムちゃんはオサムちゃんで、結局笑って済ませる。
これが四天宝寺の日常とはいえ、最近地味に傷つく機会が増えた。
それは置いといて、テニプリの夏。
全国大会が間近に迫る。
この学校は練習中も緊張感がなく、えらく落ち着いている。
氷帝なんか今頃……あ、また意識が他校に向いた。
ハ行を唱えて忘れよう。
ハヒフヘホ。
バビブベボ。
パ……。

「こぎゃんとこでなんばしよっと?」
「ピ、ピアスボーイにどう接すれば慕われるか考えてる」

遠い目で千歳くんの先に広がる天を仰いだ。
綺麗に私を現実に引き戻してくれるのは白石くん一人かと思いきや、こちらさんもそうらしい。

「俺もここで休むたい」

大きく空いている隣に目をやり、まさかの着席……いや、着ベンチ。
ゆったりと時が流れる。

「私、マネージャーだよね」
「ああ」
「マネージャーって何するの?」

隣に視線を移す。
以前の“困ったことがあったら相談しろ”というお言葉に甘えた。
経緯は違えど、同じ転校生。
やはり溶け込むのに苦労したのだろうか。
少しわかり合えたら嬉しいな。
喜びのあまり教卓の上でコサックダンスを踊ってやる。

「いでっ」

にやける私の額にデコピンの波が押し寄せた。

「なんでんしたっちゃよかとよ」

千歳くん……。
たぶんこの学校の生徒で、もっとも掴みにくい性格だと思う。
でも好感度は高い。
にこっと笑った表情が素敵すぎて直視できず、下を向いた。

「いでっ」

途端に首根っこを摘まれ、正面に向き直った。

「もっとかわいらしい反応しろや。希紀先輩」
「せ、先輩?」

するとあの財前くんが無条件で萌える先輩付けをして、私の首から手を離す。
呼び捨てももちろん大歓迎だけど、これはこれでいい感じだ。

「呼び方決めの大喜利から話脱線しまくって、俺が自分で決めたんや」
「なーに言うとんじゃ。俺がそう呼べっちゅーたやろ」

オサムちゃんにつっこまれているのがなんだかおかしかった。
素直に本当のことを言わない面がある財前くんは信用しきれない。
ただドツボをつく台詞を吐けるのは、この男の長所かつ特技だと密かに思う。

「希紀ー! ワイは希紀しか呼ばへんでよろしゅう!」

私はスコアを付けるから、君は先輩を付けてください。
こうなりゃ金ちゃんが晴れて先輩付けしてくれる日が訪れるまでここに居座り続けるんでよろしゅう。





To be continued.
20101210

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あきゅろす。
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