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お掃除蔵リン
普通はテニプリのキャラが家に来るっていうと、密室でドキドキな展開が用意されるもの。
現実世界では毎日そんな妄想にふけり、しょっちゅうにやけた。
それがこうなってしまうとは、ツイてないにも程がある。

「不衛生やな」

ほうきとちりとりセット完了の白石くんが、床を指でなぞりながらつぶやいた。
どこから持ってきたのかはもう問うまい。
それより、部活に行く時全部開けていったはずの窓が閉まり、鍵までかかっている。
猛暑の夏なのに閉め切るなんてどんな寒がりだよ、と引かれてないか心配だ。
いっそ、お化け屋敷にしてしまいたい。

「こんなほこり放置しとったら、後々体に不調を来すで。保健委員として見過ごせへんわ」

背景がいきなり薔薇に包まれ、王子様スマイルで歯を輝かせる。
この部屋はみんなの住む家とそんなに違うらしい。
ほこりなんて一つはなきゃ、家じゃないよ。

「きゃー! お掃除蔵リンの登場よ!」
「浮気か」

四天宝寺流“ワイワイガヤガヤ”とは、初めて人の家に上がり込んでもお構いなしに騒ぎ立てることを指す。
どうせならゆったりくつろいでくれると嬉しいんだけど、みんなが元気すぎる。
私なんか先日のボウリングの影響か、腕が筋肉痛だ。

「つ、次は雪だるまのぬいぐるみが動き出しそうや」
「謙也来てみ! 木馬おもろいでっ」

ここを遊園地にすればいいと思う。

「どうもキッチンのとこで草の匂いがすんねん」
「白石、壁との隙間やろ?」
「確かに匂うわ蔵リン」
「行くで小春、ユウジ! 新たな毒草の発見や!」

ついでに植物園も兼ねればいいと思う。

「桧之、その……なんや……白石がすまんな」

部屋の隅っこで頭を整理する私に、申し訳なさそうな顔で謝る小石川くんが近づいた。
漫画ではあまり話さずスルー対象だった彼の優しさに、早く気づきたかった。

「真夏に真冬の飾りもんがあるのも新鮮で落ち着く。ワシは住んでみたい物件やと感じるで」

石田くんも傷つけず励ます情け深い性格だ。
私もこういうキャラというより、人になりたい。

「どけ。邪魔やあほ」

こんな性格じゃなく。

「うわ、人口密度濃いわ」
「濃さの度合い越えてるよ。部屋も怖いけど白石くんの変貌ぶりも怖いし、ちょうど今植物園付きのお化け屋敷に改築工事しようか〜などなど考えて」
「黙れ」

一時姿を消した隣人が戻ってきてたまらず訴えると、頭をめいっぱい叩かれた。
指で壁を突き破って元の世界に帰りたい。
みんなが帰らないなら私が出て行く。

「ようし、自分ら浮かれすぎやで」

あの、白石くん。
手に持ってるのは……な、何?
黒ずんだ草に見える。
喜びに満ち溢れた顔がうかがえるあたり、それは探し求めた毒草なのだろう。

「さ、帰ろか」

ああ、良かった。
「お邪魔しましたー」と言い、ワイワイガヤガヤ隊が我が家を去る。
…………。
…………。

「えーっ!?」

今回わかったこと。
私がここに来る以前に予想していた四天宝寺一人一人のイメージが、ここに来て以降抱いたイメージと外れているレギュラー陣は半分以上存在する。
要は、見た目で人は判断できない。
それだけだ。





To be continued.
20101023

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あきゅろす。
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