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呪いの地
私の住まいに押しかけてきた大人数のお客様。
帰宅して着替えるべくクローゼットを開けた瞬間からすべてが始まった。
金ちゃんの「おるかー!?」という目の覚める一声が響き渡り、急いで服に身を包む。
大した体じゃないけれど、やはり見られると恥ずかしいし、方向音痴の金ちゃんが一人で来るとは考えがたい。
予想通り、ぞろぞろ後に続くテニス部の面々は許可なく室内を歩き回る。

「実は希紀ちゃんの手作り料理食べに来たの」

あっけに取られ、とりあえず正座する私に小春ちゃんが訳を話す。
聞けば、先日部員の間でこういった会話が生まれたのだという。

「ねえ蔵リン。希紀ちゃん、ユニフォーム丁寧に畳むわね」
「得意なんやろ。しわっちゅーしわが見当たらんな」
「掃除、洗濯、整理整頓ときたら料理の腕も気になるじゃない」
「判断材料はドリンクか」
「白石、まずかドリンクば作る方が難しかよ」
「光ぅ、希紀ちゃんの料理食べたやろ」
「抱きつかんとってください暑苦しい。一口も食べてへんし、食べたくもないっスわ」
「小春帰ろうや」
「今めっちゃええ体勢やから邪魔すんなや!」

要するに財前くんがひどいって意味しかわからないよ。
あと、この場にいない千歳くんは回想シーンのみの登場って事実しか伝わってこないよ。

「家おもろないな」
「ユウくんあかんよ。ほんまの感想述べちゃ」

どうすれば家をおもしろくできる。
テーマパークさながらのおもちゃだらけでも不満げな一氏くんに問おうか。
夜中に突如音が発生する部屋は、ぶっちゃけるとお化け屋敷のようだ。

「ぎゃあああっ!」

例えばこんな声を上げたくなる……って、誰の叫びだ今のは。

「ささささっき、ううう浮いたでこれが」

座敷に移動し、確認した。
謙也だ。
手も足もぶるぶる震わせて立ちすくみ、感じた恐怖を訴えかける。
謙也はサンタクロースのぬいぐるみを指さしていて、駆け寄った白石くんが興味津々にある提案を勧めた。

「まさかの怪奇現象や。ビデオテープ作ってテレビに投稿せぇ」
「あほ言うとる場合か!」
「誰があほやて?」
「ぎゃあああっ!」

心なしか、先ほどより悲惨な声を上げてトイレ付近に逃げていく。
何をされたのやら、数秒経つ頃には謙也の気配がぱたりと消えた。
にこにこ顔で私の横に並ぶ白石くんは、とても黒い微笑みをくれる。

「魔物が棲む呪いの地に足を踏み入れたから怒ったんちゃうやろか」
「いやん銀さん、怖い話に持ってかんといて」

テニス部の人たちはきっと当初の目的を完全に忘れ去ったのだろう。
誰も私に料理しろなどと言ってはこない。
それどころかあらぬ想像を膨らませ、住人に恐怖を植え付けるつもりでいる。

「お化けと一緒に住んどるん!?」
「一緒にっちゅーより、希紀がお化けやで」
「ワイが退治したるー!」

財前くんの適当な一言が発端で、金ちゃんはなぜか虫取り網を持って追いかけ回してきた。
金ちゃんの中では私の存在は虫なんだ。
好き勝手暴れたり騒いだり、賑やかな部員たち。
近所の皆さん、ごめんなさい。
そうして今夜、私は虫に変身する。





To be continued.
20101013

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あきゅろす。
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