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覚えとけや
他の客がちょこちょこ入り、各コーナーで熱い戦いが繰り広げられている。
そんな中、私たちはというと、競ったスコアを並べていた。
ほとんど小石川くんの手柄だ。
相手チームは二人揃ってストライクを出すため、若干有利に思えた。
しかし、小石川くんが私に適切なアドバイスをくれるおかげでスペア程度は取れるようになった。

「ついに終わるわね」

とうとう第十フレーム。
小石川くんは九本。
小春ちゃんは七本。
私の出番が来た。
この一投にすべての念を込める。

「いけー!」

小さく叫びながら球を離した。
コロコロとどこを転がっていくんだ、ボールよ。
ガタンと溝に落ちてどうするんだ、ボールよ。
後ろを振り向くと、周りは静まり返っていた。
盛り下げてすんません。

「うわぁ、滑った。なんかやな予感するで」

最後を締めくくるのは一氏くん。
投げる時、運悪く足を滑らせたらしい。
端に寄っていくボールに対し、「落ちろ」と強く願ったのは言うまでもない。
結果は、私たちの勝ち。
四点差で終わった。
もし金ちゃんと石田の銀さんがチームを組んでいたなら、ボウリング場自体が破滅の道に追い込まれただろう。

「上手くなってたな」
「何て言えばいいのやら……。今度は足引っ張らないようにするね。お世話になりました」

敗北のハイタッチを交わす大道芸人を尻目に、土下座しそうな勢いで反省する。
私が四天宝寺の空気に馴染めるのは、遠い先だ。
そんな格好で外を出歩くくらいにならなければ、きっとピエロも怒る。

「敗者復活戦や!」
「そんなもんあらへん」
「ケチやこいつ。おい、隣のレーンで俺と勝負しろ」
「無理だよ!」

まだやろうと言うのか。
結構きついけど、誰もへばっていないところを見るとみんな体力が余りすぎている。
とりあえず他の部員がいなくて良かった。

「お金持ってへんやん。次の機会があるやろ」
「だって小春ぅ」
「希紀ちゃんと握手しなさい」

一氏くんは無言で私の前に来て何かを投げる。
これは顔面に的中コースだ。
とっさな判断で掴む。
そいつの正体はガムだった。
どうせまた変な生き物を持たされると思って身構えたが、警戒を解く。

「最初はむっちゃ下手くそやったんが、最後には見られる形になっとったで」

私、思わないから。
ムスッとしながらもわずかに笑う一氏くんの顔が意外にかっこ良かったとか、絶対思わないから。
そうだ、きっとあれだ。
褒めて褒めて褒めまくってさんざんもてあそんだ挙げ句、いつものごとく私を突き落とすつもりなんだ。
その手には乗らない。
ガムの包みをはがし、一気に飲み込んでみた。

「酸っぺぇな!」

口に入れた瞬間、思い出していた丸井くんの素敵スマイルが吹っ飛ぶ。

「小春に近づいたらそないなんねん。覚えとけや、あほ」

なぜ毎回こんないたずらばかり受けるんでしょう。
どなたか嫉妬心むき出しで睨む彼との距離の縮め方を教えてください。
今日は、ボウリングには体力が必要であることを学びました。
丸井くんに会いたいです。





To be continued.
20101011

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