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変な名前
「ああ、大丈夫やですぐ終わる。ごめんなぁ、デートの邪魔して」

くすっと笑って頭を撫でられた。
今日、頭は適度に洗おう。
急いで呼んだ財前くんは、上下とも着替えが済んだようで嬉しいやら悲しいやら。
明日の部活が云々言う声を聞き、用なしと察してリビングに戻る。
白石くんって間近で見ると本当に顔立ちが整いすぎてて目が合わせられないな、なんて考えながら鞄の前に座った。
今から鞄の中身を確かめる必要がある。
買ったことがない携帯電話は諦めて、カメラや財布を探した。
軽くあさると、なぜか家に帰った段階で入れていた物が次々と出てくる。
その中に求める二つの必需品はなかった。
カメラさえあれば、プライベートの白石くんを撮影したり、財前くんの秘密の行動を激写したりできるものを……。
悔しくて悲しくて、途方に暮れる。
カメラも財布もない世界でこれからどう生きていけばいいのだろう。
それよりも、私の家族は誰一人として今ここにはいない。
ほんの少し前まで「ただいま」と言って帰った私を「おかえり」と迎えてくれた親の顔が浮かんでくる。
部屋の中で休んでいると思っていた娘が突然行方不明になってしまったとなれば……。
絶対に大変な騒ぎを招いているはずだ。

「あんた名前は」
「ひいぃぃ!」

沈んで床と同化しそうだった時に財前くんも戻ってきた。
これは妄想上の世界か、それとも現実に起きている出来事か、わからなくて混乱する。
でも、聞かれたことはちゃんと答えようと思い、ポケットに手を突っ込んで気だるげな彼に打ち明けた。

「桧之希紀と申します」
「ふぅん」

もう少し、興味を持ってほしいかな。
嫌な汗が伝う額を素早く拭った。

「桧之希紀か。変な名前やな」

ところが苗字も名前もあざ笑い、寝室らしき楽園に向かう。
名乗って恥ずかしい思いをした経験はないけれど、まさか財前くんに鼻で笑われるとは思っていなかったから、軽くへこむ。
早すぎる就寝に感心しながら時計を視界に入れた。
現在、二十三時。
深く考えれば学生が夜遊びを終えて帰る数字にもとれる。
この世界はすべてがおかしい。
財前くんは初対面の人に対してあんなに警戒心薄く接するだろうか。
白石くんはこんなに遅くまで外出する人なのだろうか。
自身の肉体は、就寝後にテニプリワールドへやってきた。
再び寝てみたら、元の世界で何事もなく過ごす女に戻れる可能性もある。

「言い忘れたけど、あんたパシリやから毎日起こしてな」

わざわざこれだけをあくび混じりに言いに来た財前くん。
彼のたった一声で意思が固まった。
私、絶対に帰りません。





To be continued.
20071215

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