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楽しもうな
関西大会は無難に優勝した。
牧ノ藤との決勝では金ちゃんがエースの萩くんを倒し、一躍有名に。
他校と段違いの差を見せつけた鮮やかな制覇っぷりだった。

「橘が弱くなっとった?」
「ああ」

こちらテニスコート、こちらテニスコート、応答願う。
千歳くんが何やら部長に報告している状況を私は捕らえた。
原作通り、順調に事は進んでいる。

「せやけど他にええとこあるやろ。立海とか」
「青学が負かしたたい」
「手塚くんとこやな」
「なんや氷帝出られへんのかい。案外関東は激戦区やったんちゃうか」

謙也も会話に入る。
三人の周りをきらめく星が包んでいき、懐かしい名と内容が聞く者をにやにやさせる。
きらきら星味のドリンクを作って部員に配りたい気分だ。

「希紀、タコヤキ食べるで!」

満面の笑みを浮かべながら金ちゃんが突進してきた。
一瞬よろける私に構うことなく、座ったベンチの上でつまようじを数本出す。
できたてほやほやのたこ焼き。
やけに多いかつお節とソースと青のり。
いつどこで買ったかはつっこまずいくとして、あまり食欲がない場合は断っていい……よね。

「今ちょっとお腹いっぱいで」
「食べようやぁ!」

腕を揺さぶる手は小さいのに力が強く、つられて頷いてしまった。
私が好きな駄々のこね方で攻めてくるこの子は一体誰ですか。
そうです、放っておくと全身の骨を無意識に折る怖さを秘めた遠山金太郎くんです。

「謙也もこっちやこっち!」

近くにいる人も巻き込み、私の腕は自由を掴んだ。

「練習後はデザート系希望っちゅー話や」

ゆっくりこちらに向かう謙也があることに気づかせてくれた。
実はほんの数分前、女の子たちが冷たい食べ物を持ってスコアボードの下に置いていった。
何の挨拶も断りもなく、百個以上もの量をバスタオルに包んで……。
一人二個食べる計算でも余る。
とりあえずまた中に変な動物が眠っているかもしれない疑いは晴れたから良しとしよう。

「はい、ご希望のやつ」

クーラーボックスに閉じ込めておいたゼリーを一つ、謙也に渡す。

「おおきに」
「たぶんお礼はあちらの皆さん方に言うと喜んでもらえるよ」

左側を指さし、熱狂的な歓声に気持ちをそらせた。
どうもどこかでまだ怪しまれている目つきで私と話す彼。
関西大会が終わってなおさら強く思う。

「先輩と目が合ったー!」
「ええなええなっ」

今月だけでずいぶん恋する乙女を増やしたテニス部の周辺は、いっそう賑わいに包まれる。

「明日部活が終わってボウリング行きたい奴おる?」
「パスしますわ」

歩いてきて即答で断られて、それでも笑顔で私の目を見つめる白石くんは偉大な人だ。
私は財前くんが積み重ねた数々の言動を根に持つタイプだから、そうやって受け流す余裕が欲しい。

「残念や。桧之さん、楽しもうな」

耳元での囁きはまずいって。
さりげなさありありの肩タッチもまずいって。
有無も言わさずボウリング決定って?
……最高だね。





To be continued.
20100316

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