要注意人物
「どうもありがとうございます。あなたのおかげで、初めて蜘蛛の紐なしバンジージャンプを見る夢が叶いました」
ちらちら気にしながらも話しかけるタイミングを逸し、部活が終わってしまった。
間接的に驚かせてくれた礼を言おうと、張本人の前に立ちお辞儀する。
「リアクション王目指しとる奴が無反応はあかんな」
ところが、一氏くんに鼻で笑われた。
私が目指すは暁の一コケシ。
そんな称号を欲した心当たりはなく、記憶をさかのぼる。
ほぼ同時に部室のドアが開き、出てきた財前くんが疑問を解決させた。
硬直して固まっていたとか何とか教えたに違いない。
「誰が嘘広めてんのさ」
「部長あたりちゃうか。あんた、よう変な声上げるやん」
「リアクション王じゃなくて無反応のほうだよ」
「俺やけど」
「あれはカチコチに固まるっていう立派な反応なの!」
思い出すだけで鳥肌発生率が百パーセントに跳ね上がる。
苦手な蜘蛛を間近で見て、しかもあろうことかそれは苦手な人からの贈り物。
仲良くなれる兆しは一向に訪れず肩を落としていると、小春ちゃんと視線が合う。
「あら、希紀ちゃん大丈夫? 皮剥けとるよ」
雑務をこなすうちにまめができた私の両手を取り、優しく微笑んだ。
「触るな小春に!」
「え、今のは私が触られてる側だったよね」
「お前は要注意人物やねん。暇さえあれば小春にあっつい視線送りよるやないか」
敵視、嫉妬、思い込み。
小春ちゃん絡みのネタに敏感な一氏くんの影響で重たい空気が充満し、とてつもない息苦しさにさいなまれる。
「普段そんな女子おらんから、お前実は男やろ」
「石田くんお疲れ」
「いつ野獣に変身を遂げるか……ああ、想像した途端に悪寒が」
「金ちゃんお疲れ」
あらぬ妄想を抱き、芝居がかった口調でしゃがんだ。
私はあえて邪険に振る舞いつつ、帰っていくテニス部の人々をひたすら見送る。
「聞いとんのか!」
とうとう怒られてしまった。
「あっ、小春ちゃんが見知らぬ男に襲われてる」
「何やて!?」
校門にいる小春ちゃんの所へ一目散に駆ける姿が必死すぎておもしろい。
追い払うための冗談が上手く効いた。
彼の扱い方は、案外簡単である。
「来んね」
「はい」
背後から現れた千歳くんが、私の腕を掴んでどこぞに誘う。
こんな時の返事はイエスに限る。
きっと素敵な展開が待ち受けていたり、新たな素顔を発見したり、ときめき満載二人旅をお送りできたり……。
楽しみは残さず食べるべし。
「夜ご飯、希紀の分も食べてまうで」
「それまでには帰るよ!」
財前くんとの愉快な暮らしも、逃さず頂きます。
To be continued.
20100115
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