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また口説いたる
昼休み、のんびり過ごせる屋上に来た。
すると白石くんがそこにいて、マネージャーは楽しいかと聞かれた。
何もかも唐突だった流れを知る人だ。
やりたくないなら無理に続けなくていい、との話だった。

「やりたい」
「やりたいん?」
「やりたい」

自分でなると決めてなった私が逃げてどうする。
今作れるだけのきらきらまなこを向け、本気を訴えた。

「口説き途中失礼しますわ」

財前くん、物音一つさせず登場。

「ケダモノ見るような目つきやな」
「先輩はもともとケダモノちゃいますか。クラスメートに手ぇ出しとったん忘れました?」

いきなり何を言い出すかと思えば、プライベートの話題だった。

「相手が寄ってきたから少し遊んだだけやで。そもそも俺、ぐいぐい来る子苦手や」

例えば、青少年に悪影響を及ぼす物語を生み出した作家がいるとしよう。
若さゆえ、その時は自分の文章力の幼稚さに気づかない。
だが、年を重ねるうちに目が覚める。
やがて加筆修正に踏み切り、卑猥な表現は九割方削除するのだ。
というわけで、もし白石くんがそういった行為に走っていても私は一割の公表にとどめ、受け止める。
ただし秘密の日記帳には全部書き残す。

「建て前でそう言うてますけど、そこの女も積極的ですわ」

なぜ私に振る。
もっと話を続けてくれなければ、メモる情報が掴めない。
“清く正しく美しく”もとい、“熱く雄々しく図々しく”生きる信条を持って何が悪い。
半開きの目を財前くんに向けた。

「桧之さんは、特別やねん」

またもや、心臓を誘惑の弾丸で撃ち抜かれた。
そんなふうに微笑まれて無事でいられる自分が不思議だ。

「私も先輩って呼んで」
「黙れあほ。今日一緒帰ったらんぞ」
「何をおっしゃる財前くん。一緒に帰るつもりないでしょ。だって毎日スタコラサッサと置いていくあなたを私が必死に追いかけてるだけだもの!」

高い所から空に叫ぶと胸がすっきりした。

「千歳先輩が探してましたよ」
「私?」
「ちゃうわボケ」
「……二人きりになりたいらしいで。興味そそらすの上手やん。ほな、また口説いたる」

一瞬誰のことか分からなかったけれど、後々意味を理解してきて、頭から蒸気機関車もびっくりの蒸気を大噴射させた。

“白石くんも去る間際に素敵な衝撃をもたらしてくれる”

男らしい背中が印象的……そうメモる。
私たちは、誰もいない屋上で長い沈黙を生んだ。
このままでは一人取り残される雰囲気がプンプンした。
上機嫌な時でさえ置いてきぼりを食らうのは悲しい。
頭を捻って最善策を思案中、何かがくるまれたハンカチを財前くんに渡された。
厚さからして、飛び出すお化けだろうか。
恐る恐る開けた瞬間、大きな蜘蛛がぴょんと飛んで地面に落ちる。

「ユウジ先輩が希紀の反応見たさに神技で捕まえた奴な。部活ん時にでも感想述べてやれや」

しばらくの間、自身は雪山の小屋の屋根にぶら下がるつららのごとく固まった。





To be continued.
20091221

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