[携帯モード] [URL送信]
××サブレ
ようやく立海の情報を掴んで無事帰着した二人。

「どないなもんか、報告してもらおか」

にこにこ顔のオサムちゃんにノートを手渡し、評価を待つ。
部活真っ最中のレギュラーはその様子を意識していない。
平部員も球拾いやひたすら練習で精一杯だ。

「性格と行動は細かに書けとるけど、レギュラー全員と接触できんかったんやな」

会った三人の印象、言動、特徴。
余計な点も多々書いたが、かくかくしかじかで楽しかった。
ここは顧問が知らずにいる事実を打ち明けるべきだ。
運が悪ければ無人のテニスコートをさまようはめになったこと。

「ガムとワカメとハゲに会うてきました」

ユニフォームに着替えて部室を出た財前くんが発言権を奪う。

“剃ってるだけだからハゲって言っちゃだめ!”

本人がくしゃみに見舞われる恐れがあり、何も言わなかった。
代わりに今日がオフだったと話すと、オサムちゃんに笑ってはぐらかされた。
まさかの無駄足危機を極限で乗り切る結果オーライな収穫は得たから良しとしよう。

「お帰り。二人とも眠そうやね」

しばらく経ち、近寄ってきた小春ちゃん。
不機嫌な隣の子の肩を叩く白石くんも呆れながら続いた。

「嫉妬せんと仲良うせな」
「そうよ。希紀ちゃんも楽しくないわよ、ねぇ」

同意を求められ、息苦しさが襲ってくる。
頷ける空気はやはり私を見放した。
風になりたい。
彼が自分を視界に映す時、蛇に睨まれたナマズのような感覚に陥る。
果てしなく怖い。
顔色をうかがわずとも、絶対納得していないのが分かるのだ。

「お疲れさんたい」
「千歳おるやん。先に帰ったかと思たわ」
「ひどか。それ何ね」

白石くんの冗談が聞けて、流れは穏やかに変わった。
これは……。

「はい」

包装紙で包んだ箱が紙袋に入った物。
帰路の途中、財前くんに持たせると不審な形相を浮かべる。
さっそく紙袋から取り出し確かめるうち、得心した様子。

「そや、××サブレ買うの忘れとって」

出発前や到着後も隙あらば商品名を連呼していた。
帰る際に手ぶらでは違和感を抱かずにいられない。
××サブレ(千五百円)を買っておいて良かったと安心した。

「礼考えな」
「いいってば」
「希紀の部屋で一晩寝たる」
「心よりお待ちしております」
「ただし……」

ピアスがきらりと光り、立てた人差し指を唇に当てる。

「百年後な」

衝撃です皆さん。
桧之希紀の百年後。
永年すぎます財前くん。





To be continued.
20090302

[*前][次#]

23/49ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!