テニスで勝て 時刻は正午を回る。 特に客の出入りも活発ではなく、営業大丈夫なの、といらない心配をする私。 気まずい現状が安息の一時に蝕んでいく。 ありつけた食事に不満はなさそうだし、ここへ来る前からどこか様子は変だと思った。 財前くんの寝坊で駅に到着した八時。 五時起きなんて冗談が見抜けず拗ねた……それは私だ。 神奈川でさっそく乗り込むバスを間違え叩かれた……それも私だ。 だがそこまではノーマルな感じが彼に流れていた。 問題は、立海と別れる頃。 「ど、どしたの」 さりげなく水を飲み干す喉が鳴る。 お初にお目にかかる人格とお見合いしているふわふわな演出は、打ち砕かれた。 「希紀がマネージャーでおれるんあと少しなんやで」 気の抜けた返事に、なーんだ、と浅い反応を返すが、直後彼の発した役割が自分であることを再確認して焦った。 秋にはテニス部にいられなくなり、いつの間にか卒業式が待つ春へ。 もしや私と顔を合わせる場が激減するであろう未来を寂しがるゆえだろうか。 何にせよ自意識過剰な思惟(しい)はやめだ。 とにかくマネージャーはそうなるけれども、 「秋からも見に行きますよ」 この答えは必然だ。 「そか」 逆に少食で終えた財前くんが髪を掻き上げ、笑った。 微笑の域は軽く越えていた。 名前が光だけにピカピカな表情は、カメラを何台も構え撮影したいほど和む。 「今の笑顔もう一回ちょうだい!」 会計に行く背へ注文すると、彼は振り返らず言った。 「欲しかったら俺にテニスで勝てや」 以前部活で白石くんと対戦して負けた試合を見たきりだ。 あの時の財前くんは部長の強さが際立ち、いいところゼロで終わり。 それでも非テニス経験者の私は、手も足も目玉も出ない可能性が高い。 「勝つ」 今度白石くんに弱点を聞き出せば、勝利の兆しがきっと見える。 希望は捨てず小さく口にした。 駅前は鳩の群れで埋まり、とても歩きづらい。 階段を上った先に広がるプラットホーム。 財前くんは椅子に腰掛けて瞳を閉じ、格好通り就寝した。 まだ“二年なら……”の真意が理解できない。 勢いで聞ける機会など今以外いつがある。 発車時刻まで二十分。 他のことをふと思いつき、私は土産物売り場へ足を急がせた。 To be continued. 20090221 [*前][次#] [戻る] |