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去年いたっけ
「丸井くん!」
「丸井先輩!」

切原くんとはもる私に一瞬目をやったが、テニスコートに歩む足は全然止まらず。
ひょっとしてアウトオブ眼中なのか、二人は背を向けてコートに入った。
自主練習と考えていいだろう。
戦う彼らを拝める喜びがじわじわ湧いてくる。

「っと、自主練やんなら昨日言えよな。付き合う代わりに朝一で買いに行きそびれたガム奢りね」
「それより先輩、来客っスよ」

靴紐を結びながら「客?」という顔で丸井くんがこちら側に目線をやった。
好機だ。
服に寄ったしわを伸ばし、悪魔の微笑みで会釈する。

「はじめまして。四天宝寺中テニス部マネージャーの桧之希紀です。こちらは部員の財前光といいます」

右側に手を差し向けて紹介した本人は、私が見た時はもういなかった。
もしや帰ったのか、と慌てて東西南北を眺め回す。
ずっと隣にいると思い込んでいた男が、木陰でほのぼの風に吹かれており、派手に転んだ。

「ああ、大阪の」

丸井くんが天を仰ぎ、つられて私も視界に青空のみを映した。
大阪といっても、あくまで漫画の中だ。
トリップ現象だって、実際は架空の人と絡める願望持ち女用バーチャルゲームが引き起こした末路かもしれない。

「自主練はあんま見られたくねぇな。今日は付き合わされる側だけど」

それでもマネージャーを担う以上、退きはしない。
まず丸井くんと打ち解けるため、ガムで釣る。

「よろしければもらってください!」
「俺に?」
「もちろんでございます」
「サンキュー!」

すると、首根っこをつねられた。
後輩が先輩にやることがきつい四天宝寺流の戯れ術。

「何ときめいてんねん」
「はっ、そうだった。私たちは危害も何も加えない置物人間なので気にせず練習していただけると嬉しいです」

そこまでじーっと見つめてもらわなくても、両者すでに見つめ倒しました。

「桧之さんって去年いたっけ」

まずい空気か照れる空気か、分からなかった。
ガムを噛んでくれて感覚がとろける一方、集まる視線に刺されそうだ。

「ほっときゃいいじゃないスか、他校のマネージャーなんか」
「良くねぇ」
「気になります?」
「いや」

二人の会話を聞くに、傷つく空気だったようだ。
どこへ行けば快さ満点な扱いに変わるか知りたい。

「じゃあ始めるぜぃ。……ジャッカルが」
「俺かよ」

立海大附属中のテニスコートでは、只今絶賛登場ラッシュが繰り広げられている。





To be continued.
20090107

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あきゅろす。
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