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はるばる偵察
日曜日の朝、普通なら部活に行く私たちは別行動を命じられた。
なんやかんやで立海大附属中に到着して感動もひとしお極まる。
キャラの濃い人々がここにもたくさんいるのだろう。
元気やる気萌え気満タン。
敷地内をあちこち回り妄想に浸る私の後に、だらだら財前くんが続く。
そこで重大な問題点が浮かび上がった。

「人っ子一人見当たりません財前くん」

テニスコートは、打ち合う音どころかそれを発する人影も皆無だ。
はるばる偵察に出向いた末がこのざまでは、部員及び監督からお仕置きされるに違いない。

「あーあ。これ、もろオフに被ったで」

コートの隅でカラスが一羽、餌らしき物をつつく。
野鳥と接触して来ました、なんて報告できるか。
私は自由帳や万年筆を地面に叩きつけた。

「オサムちゃん何も調べてなかったよ! こんなスパイノート持たせたうえ『一コケシ分の仕事やで頑張れ』とか言い出すし、しかもマネになった暁の一コケシもらってない!」
「説明口調くどいねん。やめろ」
「はい」

残念ながら口答えで彼を負かす勝算はなく、ロボットみたいに従う。
年下に怒られて縮む情けない女だ。
投げた商売道具を拾い、オフの洗礼と非常な事態がいっぺんに襲ってきた心境を書き記す。

「どうしようか」
「××サブレ買って帰る。さ、××サブレや××サブレ」

何もせず大阪へ戻っても部費の無駄遣いに貢献した汚名が残るだけ。
オサムちゃんは、レギュラーの新たなデータが欲しくて私たちを送り出すのだと言っていた。
都合良く現れてくれる人はいないか、辺りを見渡すと瞳センサーに強力な反応があった。

「そこの怪しい二人」

声の主はまっすぐ向かってくる。
左手の部室から出るやいなや、変質者的な呼び方で立ちはだかり、

「何か用?」

肩にラケットを乗せ睨む。
対抗するように財前くんが三歩進んで、彼と向かい合った。

「部員にはあるけどワカメには用なしや」
「ちょちょちょっ、NGお断りです!」
「何やハゲ」
「彼も部員だよ、それもレギュラー。あとハゲって言ってもいいけどワカメって言っちゃだめ」

爆弾発言で喧嘩を売る財前くんに耳打ちし、危機は免れた。
そう、相手は切原赤也。
赤目の恐怖が起きると厄介だ。
そして私も冷静でいられる時間に限界がある。
今は叫びたい衝動を抑えなければならない。
度が過ぎたはしゃぎで避けられるのは謙也で実証済み。
よって、慎重に接するべきだ。

「あんたら関西の学校なわけ?」
「四天宝寺中学校から新幹線でやって来ました」
「電車とバスも付け足せや」

電車は使った覚えがない。

「去年うちと対戦して負けたとこか。リベンジに燃える頑張り屋さんがはるばる偵察にねぇ……」

嫌みたらしく罵られても我慢強き心でいく。

「誰だそのカップル」

振り返った先の光景を見て、ついに集中力が途切れた。





To be continued.
20081219

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あきゅろす。
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