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向くな
白石くんに部誌の書き方を教わり、今日から本格的に仕事をこなすこととなった。
だが一つ引っ掛かる。
謙也に話しかけたら逃げるのだ。
部活中にまさかの鬼ごっこ開始。
じっとしていられなくて、私は平部員たちを見た。
彼らは自然な練習風景を作り出す天才だ。
それで気が紛れたらどれほど楽だろう。
自動的に謙也が映り込む眼球が恨めしい。
もしかしてこれは恋……いや、自分が好きなのは他の人だ。

「桧之さんをまだどっかでスパイやて疑っとるんかも」

近くのベンチに座って話題を振る白石くんは、笑っている。
きらきらとまぶしさ満点の汗がはまりすぎな男前。
ノックアウトだ。
こんな夢の園で倒れるわけにいかなくて、なんとか堪えた。

「酸っぱい」

千歳くんとの試合結果を記録しながらダジャレで返すも薄い反応。
ここではダジャレ自体通用しなさそうだ。

「ちょうどええとこに桧之!」
「はいぃ!」

肩を落とした瞬間、思いきり尻が浮いた。

「近々、関東の学校に偵察頼むわ」

直接監督に頼まれるとは、本来は普通なのだけれど感激する。
展開で言えば青学もしくは氷帝か。
ずきずき痛む背中を頑張って伸ばす。

「全国大会を見据えてな。練習試合の相手もだいたいは決めとるし。関東は激戦区やから大会常連校がめちゃ強いんや。最近やと立海やな。あ、立海や聞いてちびったらあかんで!」
「ちびりませんがびびります」

全員が束になっても勝てるかどうかわからない。
はっ、弱気に磨きをかけるなマネージャー!
四天宝寺は去年ベスト4に残ったチーム。
今年もとんとん拍子で勝ち続けるに違いない。

「せやから早めに向こうの様子を掴んどく必要がある!」
「そうですね。力みなぎります。ぽきぽき鳴ってます」

聞き流し気味に承諾後、軽いストレッチで体の緊張がほぐれた。
他校への優秀なスパイと化せば謙也だって認めてくれる。
燃え上がる野心を叶えるべく旅立つ私は、もはや向かうところ敵なしだ。

「みんな転校生や騒いで質問攻めしてきたやろ」
「いえまったく、そんな夢物語起きませんでした」
「さよか。二組はお笑いIQテストの結果が悪かった奴多いしな」

お笑いIQテストの名を初めて知らされる。

「オサムちゃん、笑えるネタできあがったわ!」
「おう、期待するで小春」

そのテストにぴったりな人物がどうやら後ろに来たらしい。
推定三歩下がれば肩を並べられるほど近くに。
さあ、振り向こう。

「向くなや」

いると思った。





To be continued.
20081203

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