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下ネタやめて
晴れない気分で表札を眺めた。
今から学校に行くけれど、本当に何がどうなってるんだろう。
もしや同姓の誰かが他にいて、その人が住む家なんじゃないのかと疑ってしまう。
クリスマスツリーとか全然飾らないし、おかしいよ。

「ぎゃあ!」

ずーんと沈む大仏殿になりそうだった身が震える。
おそらく冷たい物が後頭部に触れた。
この時間帯、こんなちょっかいをかけてくる人は彼しかいない。
振り向くと案の定、四天宝寺の制服。

「ざ、財前くん何を」
「あんたの反応、使えるわ」

嫌みを含んだ笑顔は、どんな天使もしのぐまぶしさだ。
こりゃあ女子は惚れるって。
投げ渡された冷えピタをポケットに仕込む。
ところが、一緒に登校できると信じきった考えが甘かった。
例のごとくスタコラサッサで完全無視。
私は後ろからついて行き、朝練でささやかな仕返しをしてやろうと心に決めた。
朝練……そう、朝練。

「はじめまして! 桧之希紀です」
「俺は千歳千里ばい」

最高にうきうきなご対面イベントが待っていた。
素早く名簿を開きつつ浮かれる萌え博士。
家から持参した謎だらけのボールを与え、挨拶の足しにする。

「何ね、こん青か物体は」
「家の飾りなどにご活用していただけたら嬉しいです」
「押しが弱いで希紀! ドリンク!」

金ちゃんが元気いっぱいに自前の空っぽのペットボトルを高く上げる。
不思議と安っぽく見えない。

「あ、なあ千歳。ワイの新技受けてくれへん?」
「よかばい」

確か彼はドリンクが飲みたかったはず。
それを受け取るより先にコートへレッツラゴーした。
やはりテニス部はマネージャーに恨みを抱いている。
ちっぽけな自分の存在なんてどうでもいいんだ。

「あいつら元気やな」
「うわわ!」
「桧之さんのリアクション、そのうち学校で有名になるわ」

焦らされてばかりで悔しい。
とにかく、リアクション磨きと萌え収拾に全力を投じてきて良かった。
白石くん以上の有名人の座を奪えたら万々歳間違いな……。

「そういう子は今、喰っとかなあかん」

どこぞの下剋上少年と似たような考えが見抜かれた。
包帯をほどく手は止まらず速まるばかりだ。
マネージャーの役目が見いだせる日は、遥か向こうのそのまた向こう。

「下ネタやめてくださいよ」

口を挟んできた財前くんは私の隣に立ち、さらりと喋った。

「下ネタだったの!?」
「どうやろ?」

引き続き麗しい男達が集合し、場は和む。
和むといえば、一氏くんに談笑の誘いを申し込みたい。
それもそのはず、小春ちゃんを見せてもらえないと、マネージャー業務に支障が出る。

「希紀のリアクション楽しんでええんは、そこで聞き耳立てとる謙也さんだけっスわ」
「なっ、あほなこと言いなや!」

「俺だけっスわ」とでも言うのか期待してみるが外れた。
これぞ、テニプリ一撃必殺・戯れ萌え。
そして今、悩み事なら聞くぞと離れない男が、みんなの注目の的になっている。
いくら私が窓を開け、羽ばたくカラスを眺めていたからといって。
あれを丸焼きにすれば美味しいのかと企んでいたからって。
思い詰める女に見えるだろうか。

「千歳くん。生徒のみならず先生方からも熱い視線を感じるんですが」
「場所ば変えるか」

いやそういうわけじゃ……。
嬉しい、望み通り付き従おう。
おとなしく後に続き歩く途中で石田くんを捕らえた。
両手を振ると、見物客の中でもひときわ長身な頭が下がった。
謝ったのか挨拶のつもりかは謎だ。





To be continued.
20081030

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