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あほマネ
でかでかと校内図が貼ってある職員用の下駄箱。
本来は迷子に手を差し伸べる導きだからといって、利用する人すべてが正当な理由を持つわけではない。
中には親切を逆手にとる女も案内してしまう。

「財前くんいますか」

二年七組の教室。
怪しいノートを一冊携えて通りすがりの生徒に話しかけた。

「おらんみたいですわ。言付けもんなら渡しときますよ」
「名のある少年、ありがとう」

悪念を表に出すことなく速やかに立ち去った、と見せかけて影からこっそり確認する。
頼まれるがまま少年は財前くんの机へ行き、そっと謎めくノートを供えた。
自然とガッツポーズができあがる。
標準語を使う人間は少ないせいか、新顔の登場にみんな唖然としていた。
驚くタイミングがどこまでずれるんだ、とツッコミが欲しいものだ。
部活開始間近。
時刻が迫ってくるとフェンスは黄色い歓声で包まれる。

「え〜、今日はみんなに紹介したい子がおる」

女子には負けまいと試合の応援でもないのにオサムちゃんはメガホンを通して叫ぶ。

「オサムちゃんの子ども!?」
「ちゃうで金ちゃん」
「ほな白石の子ども?」
「んなわけあるかっちゅー話や」
「ほな謙也の……いやありえへん」
「そこで現実的になんなや!」

とんでもない早とちりだ。
金ちゃんの冗談が部員及びマネージャーを生ぬるい気持ちにさせる。

「桧之希紀。転校ほやほやの三年生で、唐突やけどマネージャーになってもろた」

その間に紹介したい子は紹介されてしまった。
ほら皆さん、先生の後ろに隠れて待っていた変態が現れたよ。
せっかくマネージャーを大々的に御披露目する機会であるにもかかわらず、部員は見ていない。
監督も見ていない。
学校全体で流行っている新手のドッキリだろうか。

「えおっ!」

ぽつんと取り残された私の尻にノートが命中した。
奇妙な叫びで痛みを隠し、ためらいなく開くと自分の物だった。
一ページ目に巨大赤文字で寂しい訴えを綴っている。

《毎朝家を出たら財前くんが待ってるけどJHSまで一緒に行ってくれないね。人でなし》

これはまさしく嫌がらせに等しい。
JHSとはジュニアハイスクール、すなわち中学校。
“人でなし”というところが他の部分より目立つ。
血が垂れたような書き込みが効いたのだ。
ちなみに渾身の自信作は三十秒ばかりで仕上げた。

「俺が自分を待っとるわけないやろ。行く時間がたまたま被るだけや」

毒を帯びた意地悪そうな言いぐさ。
こうもトゲまみれの登場に華さえのぞかせるまねができる彼の親指が、私の額にツンと当たる。

「わかるかあほマネ」

財前くんはそのまま顔の距離を近づけてきていた。





To be continued.
20080710

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