プロローグ 私がその漫画を好きになって早数年。 今日もお目当てのキャラを見るために、漫画雑誌を立ち読みしてきた。 かっこいい人が盛り沢山なテニプリは、心のオアシスなのだ。 現在本誌を彩っているテニス部集団。 とっくの昔に発表済みだけれど、お気に入りの学校名は四天宝寺という。 「ステキ、バンザイ! 会って話したいぃぃ!」 彼らの関西弁を見れば見るほど語尾が色気づいて小さくなる。 「格別に良すぎる皆々様、どうぞ美味しい夢でも見させてください」 自分の部屋で正座をして雑誌に祈ると、急に眠気が襲ってきてふらついた。 早くベッドに行こうと歩き出す。 《テニプリ愛を生涯貫き通す者こそ本物の萌え博士と言える》 こう書かれた恥ずかしいベッドの手前で意識が飛び、私の力は尽きた。 関西極上旅儲 「はて?」 かと思ったが、復活してしまったようだ。 もともと強めな身体が幸いした。 暇だから部屋の掃除でもやろうと意気込んで窓側へ向かう。 まず掃除用のロッカーを開けてバケツを……出せなかった。 普段この位置に掃除道具を収納していたから確認しなかったが、何と持った気で浮かれていたのはバケツではなくカエルの置物。 すぐに床へ投げ捨てる。 「一体どこですか。変態ですが実際の私は何者ですか。そうです、これ以上にないド変態です」 裂けるほど目を開けて周りを見ても、自宅の気配すらなかった。 本来なら部屋にオタクグッズが並んでいるのに、ここは落ち着き街道一直線。 まるで男子の……訂正。 きっと無縁の人類(男)に憧れを抱きすぎているだけだ。 ここが男の家であるわけがない。 パニック頭を叩いて地上の気配がしない窓に寄ると、雲がなんとなく近かった。 誰かが自分を誘拐したのだとすれば、そろそろ犯人が来る。 万が一の時に備えてできる作戦は、メッセージを叫び残すこと。 巨大な空気中の酸素を吸い上げた。 「テニプリ好きだぁぁ!!」 「何告白してんねん」 空へ助けを求めた矢先、麗しい匂いが流れる。 すぐに正体が男か女かわかったどころか、人物まで特定した自分が恐ろしい。 漫画で初めて見た時から、その新しいタイプのビジュアルに衝撃を受けた。 振り向くと耳にピアスをしていたから、絶対にそうだと確信した。 「不法侵入者や。大家さんに知らせな」 制服姿を拝めて鼻血が出る、と思ったけれど通報されると血すら出せなくなる。 「こんばんは。起きたらこの部屋にいたので、ここに置いてください」 「あほか。早よ帰れ」 そりゃそうだ。 切り捨てる言い方で追い出し文句を飛ばされた。 そもそも漫画の中の登場人物が帰ってくる時点で変だとは思った。 漫画の世界へ行く能力は、魔法使いに頼まない限り授かれるものではない。 とりあえず挨拶の仕方が悪かったという理由も考えられるため、再度挑戦だ。 「財前くんお願いします。何でもするので」 本当は「光」と呼んでみたい衝動を抑えて頼む。 少しも返事に期待せず、勝手すぎる願いを垂れて頭を下げた。 To be continued. 20071201 [次#] [戻る] |