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結局好き
「よっ、嬢ちゃん」

九時過ぎ、ファミレスで朝食を済ませた奈留に不審な男が話しかけてきた。
どう対処すれば適切か、初めての経験に戸惑う様は傑作だ。
笑いを堪えてサングラスに触れたままくいっと上げてみせる。

「俺や俺!」
「オサム先生?」

ぱちくりさせ見開いた目は、微笑みへと変わった。

「サングラスやと気づけへんもんやな」
「いえ、父に似てたもので」
「ほぉ〜。そりゃぜひ、おとんに会ってみたいわ」

同テーブルの向かい側の席を確保して座る渡邊。
単なる偶然とは考えづらい。
そう、彼は尾行を働いてまで確かめるべき気持ちがあったのだ。

「はあ、パー出しとったら勝てたんや」

同時刻。
自分の手のひらにぼやく少年と、

「先言うとくけどおまえら容赦なく食うなよ」
「タコヤキタコヤキ!」
「タコヤキはあらへん金ちゃん」

はしゃぎまくり飛び跳ねる少年と、

「めったにできひん先輩ヅラできて良かったんちゃいます?」

辺りを見回し皮肉る少年の足が、例のファミレス近くに迫っていた。
カフェやコンビニ、食堂や弁当屋。
腹は膨らむが刺激少なめな店ばかりである。

「ここ入りましょうや」

ふと立ち止まった財前が中に居座る仲睦まじい二人を目撃し、忍足に怪しく提案した。

「おお、そうしよか。行くで金ちゃん」
「タコヤキィィ!」
「や、せやからタコヤキは……」

特に店内を確認していなかったからだ。
四つテーブルを挟んだ奥が見えた瞬間、忍足は床にしゃがむ。

「友達落としてもうたんスか」
「(あいつが)おるの知りながらこの店選んだやろ」
「人聞き悪いっスわ。あの人の声が聞こえる場所に座れて満足しとるくせに。俺ら来とること教えてきますわ」
「待ち!」

一旦ひそひそ話をやめた。
怪しい顧問と生徒の関係に興味は深まる一方で、食事を奢らされる仕打ちへの不満など、その比ではなくなった。

「性格そっくりで、たぶん気も合うんだろうなってずっと思ってました」
「もし一緒に住んだら明るくなるな」
「いつか実現したいですね」

満席で騒ぎ立てる客も多いが耳の良いスピードスターと天才はあっさり聞き取れてしまう。
たこ焼きを注文後、メニューに釘付けな遠山。
奢り主が頼んだポテトを無心で平らげ、追加注文しようとして怒られた。

「二人で同棲話」

財前がコップ一杯分の水を飲み干し、向かいの忍足に飄々と伝える。
奈留は渡邊しか見ていないため、顔がうかがえるはずの後輩二人はアウトオブ眼中だ。
お構いなく店員に次々と料理を頼む彼らは、とどまることを知らず。
それもこれもかなり動揺し、奈留たちを監視する忍足が異常なので仕方ない。

「本題に戻るけど、結局好きなんやろ」
「好き……ですよ」
「ついて来てくれるか?」

忍足は彼女が赤らめた頬を見て嫌な予感に襲われた。

“好き”

この状況だ。
愛を確かめ合う恋人同士の雰囲気がそこにある。

「返事は急がんでええ。五日の朝、学校で待っとくわ」

そう思えて真っ暗に染まりつつあった視界。

「約束らしきもの交わしましたよ」
「いちいち中継すんなや!」

だが、ツッコミ根性は彼を立ち上がらせた。





To be continued.
20081210

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